アントニオ猪木「ソ連に仕掛けた闘魂外交」の裏側 あのモハメド・アリ戦はKGBでも「伝説」だった
本人の話によると、猪木はスポーツ交流でソ連の鉄のカーテンを少しでも押し開きたいと考えていたが、会話の中に「交流」とか「友好」といった言葉はなく、すべてが金の話だったそうだ。
「日本人はソ連に対して悪い印象を持っています」
その後も我慢強く交渉したが、進展しない話し合いが続き、最終的に「交渉決裂」を伝えるためSOVインタースポーツの担当者にこんなことを言った。
「こちらは民間人だから東京ドームの興行の中止は3億円くらいの赤字になるが、それだけで済む。でも、あなたたちは国家の代表だ。このままではあなたたちの顔は潰れ、ただでは済まないと思いますよ」
さらに猪木はサインされることがなかった契約書を破り捨てて、ホテルに戻ったという。これはギャンブルだった。相手がどう出てくるかは、わからない。でも、呑めないものは呑めない、ということである。
「バグダーノフ将軍があなたに会いたいと言っている」
しばらくして、SOVインタースポーツの関係者が猪木の部屋を訪ねてきた。バグダーノフ将軍は内務省のナンバー2で、ソ連柔道連盟の会長でもあった。
「私はプロモーターである以上、お金は稼ぎたい。でも、彼らを日本に招聘する理由はそれだけではない。残念ですが、日本人はソ連に対して悪い印象を持っています。私はこの機会にソ連にはこんなすばらしい格闘家がいるということを日本はもちろん、世界にアピールしたい。それなのに、あなたたちはお金の話しかしない」
静かに猪木の話を聞いてきたバグダーノフ将軍が口を開いた。
「わかりました。私の権限で選手たちを日本に送ります。お金の話はイベントが成功した後にしましょう」
こうして、レッドブル軍団は日本にやって来ることになる。
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