ネット配信拡大で変貌する「映像ジャーナリズム」 報道はTVニュースから配信ドキュメンタリーへ

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制作過程にも変化が生まれている。グローバルプラットフォームを介した世界中への配信は、従来と比較して飛躍的に早く、手間がかからずにできるようになった。制作から配信までに要する時間が短くなったため、旬な話題をタイムリーに提供するスタイルが主流になりつつある。テレビニュースに近い作品も生まれるようになった。

Netflixシリーズのひとつ『イカロス』。自転車選手がロシアの国家ぐるみのドーピングの真相に迫る (Netflix提供)

そもそもドキュメンタリーには決まった様式がない。そのテーマは無限にあり、撮影手法や作品形式も同様だ。そしてここ最近のドキュメンタリー制作には、長編映画監督や広告業界のクリエイターなどの参入も増えている。

作品数がグローバルプラットフォームで数多く配信されたことで、視聴者の裾野も広がり、作品自体もグローバルな視点で制作されるようになったことも特徴のひとつ。視聴者にとっても世界の関心事へのアクセスが容易になった。

視聴者側の環境変化も大きい。コロナによる在宅時間の増加で、動画配信サービスは一気に普及。無数に配信される作品のなかから、ドラマや映画以外にも光が当たる機会が増えたことで、情報感度の高い層を中心にドキュメンタリーの需要が広がった。

根拠なき陰謀論を主張するQアノン集団とは何者なのか? ドキュメンタリーで迫る『アノンの正体 / Q: INTO THE STORM』はU-NEXTで独占配信されている © 2021 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.

また、ユーザーの情報欲求の高まりの背景に、SNSでの対話機会の増加もある。とくにネット世代は、YouTubeやTikTokなどでお気に入りのインフルエンサーから情報を得ようとする一方、自らの見解や関連情報の投稿、発信に積極的な人が増え、SNSにおける活発な議論が見受けられるようになっている。情報に対してハングリーな人が増え、ドキュメンタリーがその格好の受け皿になっているようだ。

実際にU-NEXTでは、ドキュメンタリージャンルの視聴者数は、2019年から2021年で4倍に拡大。U-NEXT 取締役COOの本多利彦氏は「とくに2020年以降急速に伸び、それ以降も高止まりしたまま支持を集めている。コロナ禍で外出が制限され、海外旅行に行けなくなったことや、その反動による国外への関心の高まり、さらには世の中が混沌とする中、 “真実の物語”への欲求が高まったことなどがニーズを後押ししていると考えられる」と話す。

若い世代をひきつける世界視点の映像表現

日本では、テレビよりYouTubeを視聴する若年層が配信ドキュメンタリーにも手を伸ばしている。本多氏は、社会的ニュースを題材にする作品が増えるにつれて、視聴者層が従来のメインである40代男性から20代に広がっていると実感する。

「テレビでドキュメンタリーを観たことがなかった若い世代が、衝撃的な映像も含まれるディープな海外の作品に触れて、そういった作品への欲求が生まれている」(本多氏)

またテレビが厳しいコンプライアンスのもと制作、放送されているため、もの足りなさを感じる若者も少なくない。反対にひとつのテーマをグローバル視点で徹底的に深掘りし、辛辣な切り取り方や映像表現を評価する向きがある。そしてそれこそが彼らの「報道映像」になりつつある。そうした点や、作り手の拡大を考えると、映像ジャーナリズムの主流はテレビニュースから配信ドキュメンタリーにシフトするかもしれない。

一方で課題もある。配信サービスのユーザー数が限られており、テレビのようなマスメディアにはなっていないということだ。ドキュメンタリーが映像ジャーナリズムのメインストリームになるには配信がマスメディアになることが不可欠であり、まだ時間を要しそうだ。ただし、若い世代を中心にジャーナリズムを配信の映像から求める習慣がついてきている傾向があるのは確かだ。

事実を伝えるのはテキストでもストレートニュース映像でもよいが、SNSで語り合う意見を出すための情報を得るにはドキュメンタリーで深掘りする。ドキュメンタリー好きの欧米の若者のように、良質なドキュメンタリーで情報を深めて自分の意見を持つカルチャーにつながるとさらに裾野は広がることだろう。

いずれ配信サービスがマスメディアになれば、“ドキュメンタリー=ジャーナリズムの最先端”になるのだろう。ドキュメンタリーがライフスタイルのなかにある時代がすぐ近くまで迫ってきている。

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