三菱ケミカルの哲人経営者が退任する意味 同友会人事で早まった小林喜光社長の退任

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2015年4月に三菱ケミカルホールディングスの社長に就任予定の越智仁・三菱レイヨン社長(撮影:梅谷秀司)

越智氏は1977年に三菱化成工業(現三菱化学)に入社し、黒崎工場のアンモニア課に配属され、20年間にわたり肥料、無機事業を担当した経歴を持つ。その後、1997年に半導体製造向けの高純度薬品工場の立ち上げのため、米国テキサス州で勤務する。ここでサムソン向けの取引を開拓したことで頭角を現し、2000年からは古巣に戻り構造改革を実施。2005年からその関連事業である日本化成の役員に就いていた。三菱化学に戻ったのは2007年。三菱ケミカルホールディングスの経営戦略担当役員にも就いて、小林社長の下で三菱レイヨンのグループ化に尽力した経緯もあった。

2012年に三菱レイヨン社長に就任したときは繊維事業の経験がなかっただけに不安もあったようだが、炭素繊維の川中、川下戦略で実績を出す。M&Aも駆使して自動車部品にも挑戦。炭素繊維強化プラスチック製トランクリッドが日産GT-Rに採用されるなど、自動車向けで実績を積み上げた。

世界トップシェアを誇り、中長期で見た戦略事業であるMMA(メタクリル酸メチル)の拡大も推進した。三菱レイヨンは買収により低コストなガス由来の原料であるエタンを効率的に使用できるアルファ法という製造技術を保有しており、この工場をサウジアラビアに建設しようという計画だ。2014年6月には合弁設立とプラント工事の発注にまでこぎつけている。特許も保有する競争力抜群の製造方法を、世界最低コストを誇るサウジのエタンを使用し、2017年にも営業開始を目指している。

新社長の目標はスリーエム

越智新社長は、引き続き三菱レイヨン社長も兼務する。小林社長も2007年から5年間はホールディングスと三菱化学の社長を兼務した経験から、「しばらくは一緒にやっていたほうがいい」と兼務をしばらく続けることを勧めた。

2015年6月の株主総会後、三菱ケミカルホールディングスは委員会設置会社に移行する。小林社長は「会長として明確に責務を果たす」考えだ。週の半分(2日半)は同友会、半分は三菱ケミカル関係の仕事を行うことになるようだ。委員会設置については、東京電力での経験が後押しした。「数土会長のもと、きわめてオープンで、ものすごくディスカッションをやっていて、これはいいマネジメントの進め方だと実感した」(小林社長)。グローバル企業にあったスタイルと確信して決めたようなのだ。

小林社長の目標とする企業はデュポンだったようだが、越智氏の目標はスリーエム。「感性とスピード感。持っている技術をフルに使っている。ああいう風にならないかと思っている」(越智氏)。小林社長時代に、儲からなくなった塩ビやカプロラクタムなどの事業を次々整理し、エチレンプラントの集約にも一定のメドがついているだけに、「課題は新規事業」(小林社長)。スリーエムのように伸びる三菱ケミカルを見ることができるか、注目される。

山内 哲夫 東洋経済 記者

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やまうち てつお / Tetsuo Yamauchi

SI、クラウドサービスなどの業界を担当。

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