政府は東芝メモリの売却に対して、異様なまでの介入意欲を示している。一時浮上した複数の日本企業から出資を募る奉加帳方式や産業革新機構を使った日米共同買収などの案はその表れだ。台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業など外資企業が2兆〜3兆円で応札したら、日本企業や産業革新機構の資金力だけでは太刀打ちできない。だから経済産業省は自分たちが嫌う外資企業を排除する切り札として、安全保障の問題を持ち出した。
現在の経産省には企業や産業に影響を及ぼせる手段が少ない。予算や税を仕切る財務省、公共事業を配分する国土交通省、強い許認可権限を握る厚生労働省などに比べれば、弱小官庁となってもおかしくない。安全保障を理由に外為法を使うのは、経産省に残された最後の強力兵器といってよい。
だが安全保障上の脅威なら、汎用半導体にすぎないフラッシュメモリよりも憂慮すべき問題がいくつもある。私が産業技術総合研究所(産総研)の理事を務めていた頃から、中国人研究員が機密データをUSBメモリで持ち出す技術スパイ問題が実際に起こっていた。また米国は政府部門が中国製の通信基地局やサーバーを調達することを制限しているが、日本では自治体に中国企業が食い込んでいる。こういった顕在化した脅威に対策を講じないまま、軍事転用される「かもしれない」というあいまいな理由で東芝メモリ売却だけを制限するのは、非常にいびつだ。
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