ソフトバンクグループが昨秋、半導体設計の英ARM(アーム)ホールディングスを買収したことは、半導体業界に衝撃をもたらした。売上高1716億円、純利益602億円(2015年度)と高収益企業だが、買収額3.3兆円は通常の企業評価からは高い。事業シナジーもほとんどない。孫正義社長は、この買収で何を得ようとしたのか。
ARMの商品は半導体回路の設計図面で、顧客は世界中の半導体メーカーだ。顧客はARMにライセンス料を払って図面を入手し、スマートフォンや家電などに搭載する半導体を開発・製造する。この図面そのものがIP(知的財産)だから、顧客は半導体の販売量に応じてロイヤリティ料も支払う。半導体が販売されているかぎり過去のIPが収益を生み続けるストックモデルが、高収益を支えている。

ARMの設計した図面は、特にスマホ分野ではあらゆる半導体メーカーが採用している。だがARMの真の強みは図面やIPではない。業界のプラットフォーム的存在として、あらゆる半導体メーカーと等距離で付き合い、技術課題とそのソリューションという知の集積と流通を担っていることだ。
半導体メーカーにとっては、省電力化のような同業と共通する悩みは、自社の経営資源を投入するよりARMのような中立的存在に一手に引き受けてもらいたい。そのほうが自社の得意領域に集中できるからだ。台湾メディアテックのようなファブレス(開発専業)半導体ベンチャーが急成長したのは、ARMのおかげで経営資源を効率的に投資できたからでもある。
そしてこれから本格化するIoT(モノのインターネット)時代には、ARMがいっそう価値を増す。あらゆるモノがコンピュータにつながると半導体市場が広がり、ARMの収入基盤は充実する。さらに重要なのは、IoTはスマホのように単一で大量のアプリケーション(用途)ではなく、多品種少量の端末の市場という点だ。しかもそのアプリケーションを必要とするのは金融やアパレルなど、半導体に不慣れな企業が多い。だからARMの持つ知見がいっそう求められるのだ。
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