「自然流産」「新生児仮死」――。
2025年、薬の副作用・有害事象を収集する医薬品医療機器総合機構(PMDA)にこんな2つの症例報告があった。いずれも、日本イーライリリーの糖尿病治療薬「マンジャロ」を本来の使用目的でないダイエット薬として使っていた。うち1例の20歳代の女性の場合、マンジャロ5mgを使用した後に自然流産している。記載されている情報は少なく、いずれも薬との因果関係は明らかではない。
マンジャロに代表される「GLPー1受容体作動薬」と呼ばれるカテゴリーの薬には、体重減少を促す作用がある。ただ、同剤の添付文書には妊婦または妊娠している可能性がある女性には投与してはいけないことが明記されている。日本ではダイエット薬として話題になる一方で、こうした深刻な健康被害をもたらすリスクがあることはあまり知られていない。
"ダイエット薬"として使われる背景
「マンジャロ打ちな」「マンジャロ打って5キロやせてから売れた」
今年5月、人気キャバクラ嬢でインフルエンサーのゆいぴすさんが、YouTube番組「LAST CALL」で、出演者にマンジャロによるダイエットを推奨したことで批判を浴びた(トップ画像参照)。番組内でマンジャロのオンライン治療サービスの広告塔に就任することも紹介されたことから、医薬品医療機器等法(薬機法)上の違反が問題視され、謝罪する事態となった。
世間では「ダイエット薬といえばマンジャロ」とのイメージが広がっている。背景には、マンジャロと同じ成分(チルゼパチド)を使った肥満症薬が開発され、日本で承認されたことがある(図表)。日本イーライリリーの「ゼップバウンド」という製品で、25年4月に発売された。

ただ、ゼップバウンドはあくまで「肥満症」という病気に対する治療薬で、美容・痩身を目的とした使用は承認範囲に含まれていない。ここがわかりにくいところだが、日本肥満学会は「肥満」と「肥満症」を明確に区別している。
肥満はBMI(体格指数)が25以上で体脂肪が多い状態を指し、病気ではないと説明している。一方、肥満症はBMIが25以上で、さらに高血圧や脂質異常症など肥満に関連する健康障害を合併している、または内臓脂肪が蓄積して医学的治療が必要な状態を指すという。これを踏まえゼップバウンドの承認条件は「BMI27以上であり、2つ以上の肥満関連健康障害がある」か「BMI35以上」となっている。
しかも、厚生労働省はゼップバウンドについて「最適使用推進ガイドライン」を定め、処方できる施設を限定している。ガイドラインを守らなければ保険適用されない。対象となるのは全国1200施設程度。肥満症として治療を望んでも、地域によっては処方してくれる施設が近隣にはない場合もある。つまり、保険適用でゼップバウンドを使用するハードルはそれなりに高い。
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