腐敗する中国、映画に描かれたその実態 ロシアにも共通するゆがんだ資本主義の弊害

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こうした政治モデルは米国型の自由民主主義の強力なライバルだとみられている。が、冷戦の間、独裁的な資本主義国は通常は軍事政権下にあり、反共産主義で米国寄りだった。

米国に依存する国家の独裁は冷戦終結とともに多かれ少なかれ終焉し、自由民主主義国家が取って代わった。多くの人々は、自由民主主義と資本主義が世界で手を結ぶのは自然だとする考えを信じた。政治的自由は企業活動にとってよいことであり、その逆も真である。

この20世紀の神話は砕け散った。ハンガリーのオルバン首相は、自由民主主義はもはや実行可能なモデルではないと主張した。中国やロシアが成功しているのはイデオロギー的な理由ではなく、より競争力があるからだと語った。

ロシア経済は原油など天然資源にあまりに依存しすぎだし、中国の一党独裁体制は経済危機の際には一気に崩壊する可能性がある。反自由主義の政権が自己目的のために法を利用するやり方は投資家の信頼にもつながらない。

『リバイアサン』と『罪の手ざわり』で辛辣に描写された社会は、それでも今のところ、欧州の経済停滞と米国の政治的機能不全に幻滅した多くの人々の目にはよく見えている。高額プロジェクトに大規模な資金を必要とする西側のビジネスマン、芸術家、建築家は「事をやり遂げる」独裁的な政権と一緒に仕事をすることを楽しんでいる。極端な右寄りと左寄りの反自由主義の思想家たちは、米国に立ち向かう独裁者を称賛している。

『罪の手ざわり』は世界中で上映され、大いに称賛されたが、中国ではそうでなかった。対照的に『リバイアサン』は米アカデミー賞に公式エントリーされた。少しばかりのロシアの表現の自由を示せば、プーチン氏にも幾分の自由主義があると外国人を納得させるかもしれない。それが幻滅に終わるまでは。

週刊東洋経済2014年12月6日号

イアン・ブルマ 米バード大学教授、ジャーナリスト

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Ian Buruma

1951年オランダ生まれ。1970~1975年にライデン大学で中国文学を、1975~1977年に日本大学芸術学部で日本映画を学ぶ。2003年より米バード大学教授。著書は『反西洋思想』(新潮新書)、『近代日本の誕生』(クロノス選書)など多数。

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