大雨被害の上高地線、注目高まる「新車」と「復旧」 2021年夏に橋梁が被災、6月の全線再開目指す

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復旧に向け、地域や上高地線のファンらによる支援の動きも広がっている。上高地線を盛り上げようと、2016年から駅や車内で古本市を開いてきた「しましま本店実行委員会」代表の太田岳さんは、「長引けば復旧できなくなってしまうかもしれない。早く復旧してほしい、応援しているということを目に見える形で発信しなければ」と、被災直後の8月下旬から早期復旧を願う応援プロジェクト「#はしれ僕らの上高地線」を始めた。

SNS画面風のパネルを使って撮影する応援写真は、開始1カ月で100点以上に。沿線の酒造店との協力で、売上の一部を支援金とする限定ラベルの日本酒もつくった。活動を通じ、太田さんは「自分は乗らないから関係ないと思っていた人にとっても、(不通になったことで)改めて『必要な電車なんだ』ということを再認識する動きが出ていると思う」と話す。

長野県内の3私鉄、上田電鉄・長野電鉄・しなの鉄道はヘッドマークなどを寄贈。サッカーJ3の松本山雅を支援する「山雅後援会」も寄付金や電車内に応援メッセージを掲示するなど、各方面から支援の声が集まっている。

新車登場、全通100周年で新時代へ

橋梁の復旧工事は2021年11月末に始まり、今年1月には橋桁と傾いた橋脚を撤去。順調に進めば5月には再び橋桁を載せられる見込みだ。調査の結果、幸いにも橋桁には問題がなく、そのまま使えることがわかったという。

上高地線の新型車両20100形。元東武鉄道の20000型を改造した(写真:アルピコ交通)

上高地線はこの春、全線復旧を前に1つの「転機」を迎える。約20年ぶりとなる新型車両の導入だ。元東武鉄道の車両を改造した「20100形」を3月下旬から運行予定で、すでに鉄道ファンの注目を集めている。そして、6月に予定する田川橋梁の復旧と全線運転再開後の9月にも1つの節目を迎える。全線開通100周年だ。

新車の導入、全線復旧、そして全通100周年と、2022年は上高地線に注目が集まる年となりそうだ。隠居部長は、「橋梁に関しては市をはじめさまざまな方々にご協力をいただき、本当に感謝しかない」と述べ、「新車で少しでも快適に乗ってもらえるようになればと思っている。この先も安全に走らせていかなければならない」と意気込みを新たにする。

コロナ前の利用増を牽引した訪日客需要の回復は見通せないが、「電車が止まった」ことで改めてその重要性や価値に気づいた人は沿線にも多いに違いない。「次の100年」に向け、その認識をどう利用に結び付けていけるかが今後の課題だ。

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小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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