大雨被害の上高地線、注目高まる「新車」と「復旧」 2021年夏に橋梁が被災、6月の全線再開目指す
復旧のメドがたたない状態となってしまった田川橋梁。だが、8月16日には途中駅の新村と松本駅の間で代行バスの運行を開始した。アルピコ交通はバスのウェイトが大きい交通事業者だ。すぐに代行輸送にこぎつけたのは「バスと一体というのが会社として大きかった」(隠居部長)という。
新村は松本から7つ目の駅で、被災した田川橋梁からは離れているが、電車の折り返しが可能でバスの駅前乗り入れもできることから代行輸送の乗り継ぎ駅となった。その後、松本から2つ目の渚駅に信号機などを移設して電車が折り返せるようにし、10月8日には代行バスの運行区間を渚―松本間に短縮した。
松本市も早い段階で復旧に前向きな姿勢を示した。同市の臥雲義尚市長は被災直後の8月17日、「できるだけ早い復旧に向けて調整してまいりたい」「松本市にとって重要な交通機関なので、当事者意識を持って取り組んでいきたい」と支援の検討を表明した。
黒字で「災害復旧補助」には当たらず
豪雨で被災した私鉄の復旧といえば、長野県内では2019年10月の台風で千曲川の鉄橋が崩落し、昨年3月に全線再開した上田電鉄別所線が記憶に新しい。同線の場合は、国による鉄道の災害復旧補助制度を活用した。だが、今回は同じ方法は取れなかった。理由について松本市公共交通課の担当者は「上高地線は黒字だったため、そのスキームに当たらなかった」と説明する。同制度は、被災路線が過去3年間赤字であることが要件の1つ。近年好調が続いていたことが、この点では裏目に出たといえる。
このため、橋梁の復旧については市が補助する。費用は概算で2億4640万円と見積もられ、市は2021年11月、1億4640万円を負担すると表明。アルピコ交通は約1億円を負担する。県も2021年度の補正予算で、復旧支援事業補助金として5675万円を計上した。国は橋梁の復旧事業とは別に、被災しなかった橋脚やもう1つの鉄橋である奈良井川橋梁の強化などを支援する。
アルピコ交通の負担分は、同社をはじめ全国の私鉄が加盟する日本民営鉄道協会の土木構造物保険を活用するという。同協会によると、この保険は風水害など突発的な事故でインフラに損害が出た場合に備え、協会が保険会社と契約する団体保険。「今まで保険の掛け金は払っていたが使ったことはなかった」(隠居部長)といい、いざという時への備えが功を奏した形だ。
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