「世田谷の地価下落」が示す不動産三極化の現実 好立地マンションの価格上昇は止まらないが…

拡大
縮小

さて、先述した「利便性追求」の傾向は、都市郊外でも同様です。首都圏で言えば東京都心から30~40km圏内、ドアツードアで1~1.5時間。イメージとしては国道16号内外の、相模原・町田・さいたま・柏・船橋といった、かつて団塊世代と呼ばれた人たちが大挙して住宅を求めた、いわゆる「ベッドタウン」が該当します。

ベッドタウンとは文字通り「寝に帰るだけの場所で、毎日満員電車に揺られて通勤する人が住むところ」とでもいうような、ちょっと揶揄ないしは卑下するような表現なのですが、高度経済成長期かつ住宅神話の中で、都市郊外に住宅を求める動きのなかで生まれたものです。

かつてのベッドタウンと言えば1947~1949年に生まれた子育て期の団塊世代が中心で、街は子供であふれていました。団塊世代とは文字通り極端な人口の塊で、現在時点で200万人程度、その前後世代より20~30%多く、住宅、家電や自動車などを代表として、個人消費を牽引してきた世代と言えます。

駅徒歩15分の100平米より徒歩2~3分の70平米

翻って現在の住宅購入ボリュームゾーンである30代中盤世代は120~130万人程度と団塊世代の60%程度しかいません。しかも彼らの多くは、団塊世代のほとんどが「専業主婦世帯」であったのとは対象的に、いわゆる「共働き世帯」です。こうなると通勤は2人分。したがって「より都心に」「より駅近に」「より会社に近く」「より生活利便性高く」といった嗜好が先鋭化しているのです。

生活利便性に重要なのは通勤・通学だけではありません。日常の買い物や病院、行政手続きなどの施設はより中心部に集積しています。さらに「乗用車保有率」も若年層になるほど低下しており、多くの世帯が「空間」や「居住快適性」より「時間」を大切にする傾向にあるのです。イメージとしては「駅徒歩15分の100平米より、徒歩2~3分の70平米がいい」というようなものです。

『バブル再び』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

「自動運転が普及すればその限りではないのではないか」といった見立てもありますが、それはそういうわけにもいかないのです。たしかに個人としては、自動運転が普及すればタクシーなども現在より自由に安価に利用できるでしょう。だがそれでは自治体の経営がままならないのです。

一定の人口密度を保たなければ、上下水道や道路・河川・公園・橋といったインフラの維持や修繕にコスト効率が悪化し、自治体の経営は疲弊してしまいます。典型的な首都圏郊外ベッドタウンに位置する埼玉県新座市は「このままでは自治体経営が持続不可能だ」として「財政非常事態宣言」を発出しています。

世帯数減少下の自治体経営は、駅前や駅近などに集住してもらい、経営効率を高めるしかありません。「税金を上げる」「行政サービスを大幅に簡略化する」「街を縮める」の3択なのです。

長嶋 修 不動産コンサルタント(さくら事務所 会長)

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

ながしま おさむ / Osamu Nagashima

1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社『株式会社さくら事務所』を設立、現会長。以降、さまざまな活動を通して“第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント”第一人者としての地位を築いた。国土交通省・経済産業省などの委員も歴任している。主な著書に、『マイホームはこうして選びなさい』(ダイヤモンド社)、『「マイホームの常識」にだまされるな!知らないと損する新常識80』(朝日新聞出版)、『これから3年不動産とどう付き合うか』(日本経済新聞出版社)、『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ社)など。さくら事務所公式HPはこちら
 

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
マーケットの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT