「世田谷の地価下落」が示す不動産三極化の現実 好立地マンションの価格上昇は止まらないが…

拡大
縮小

これが1990年のバブルやリーマン・ショック前のプチバブルと大きく異なるところ。かつては東京都心部に火がつくと、その波は外縁部に波及し、より郊外へ、地方都市へと広がったものですが、昨今ではそうした動きは限定的です。

「都心・大都市部」「駅前・駅近」「大規模」「タワー」のワードが示す好立地で起きた大波が、郊外や地方都市に与える影響はあくまで限定的なのです。いわば「局地バブル」「部分バブル」とでも言うような状況です。

世田谷区で何が起きているのか?

同じ大都市部であっても格差が広がっているのが昨今の特徴でもあります。

2021年7月1日時点の基準地価では、東京23区の住宅地における下落率の上位10位を世田谷区内の地点が独占しました。352ある23区の住宅地の調査対象のうち、世田谷区には45地点ありますが、23区全体のマイナス28地点のうち実に半数の14地点が世田谷区だったのです。

下落率が2.0%と23区最大となった世田谷区岡本3丁目は砧公園に近く閑静な住宅街ですが、最寄りの東急田園都市線用賀駅まで1.8km。不動産広告表示に合わせ1分80mで換算すると、22.5分かかる計算です。

ここに信号待ちなどを含めた実質的な所要時間は25分程度、あるいはそれ以上かかるはずで、要は通勤・通学などの交通利便性の点で難しいといった評価をされているのです。鑑定評価書には「利便性に難点があり、需要は減速傾向。画地細分化の傾向もある」とあります。

ちなみに「新築マンション市場」はまったく指標として当てになりません。首都圏新築マンション市場では、2001年には首都圏でおよそ8万9000戸だった発売戸数は2020年に約2万9000戸と30%程度の水準にまで減少。販売時価総額は前述した通り2001年の3兆6000億円から2020年の1兆6000億円へと減らしており、市場全体としてはそのパイを大きく減らしてきました。

これは「駅前・駅近・駅直結」「大規模」「タワー」といったワードに代表される高額物件が主流となる一方で、「都心から遠い」「駅から遠い」といった相対的に価格が割安な物件が激減しているためです。

新築マンションの販売価格はマンションデベロッパーがコントロールでき、売り出し価格しか公表されず、体力さえあれば売らずに保有することもできるため、より市場性を鑑みた成約価格が見えにくいところがあります。株式市場で言われる「官製相場」ならぬ「民製相場」といったところでしょうか。

一方で中古マンション市場は、ほとんどの売り主が個人であるため価格コントロール機能があるわけではなく、成約価格や成約平米単価は、市場をリアルに反映していると言えます。

次ページ郊外でも進む三極化
関連記事
トピックボードAD
マーケットの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT