写真が語る「キエフの地下鉄駅」信じがたい光景 女性や子ども1万5000人が寝泊まりしている

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駅はロシア軍の脅威から地下深くへと隠れている(駅まではエスカレーターで1分もかかるのだ)。その先にも魅力的な駅が続く。キエフ・スポーツ宮殿、黄金の門、洞窟、諸国民の友好……。しかし、電車が不定期に運行を続けているものの、ここでは誰もどこへも行こうとしない。

「子どもたちにも悪いですし」とコヴァルチュクは言う。「私は獣医師であって、医者ではありませんが、この状況が彼らにとってどんなにつらいものか、よくわかります。彼らはストレスにさらされているのです。夜中に泣くこともあるんですよ」。

コヴァルチュクは、そのストレスでほとんど眠れなかったという。そして、戦争を始めた張本人であるロシアのプーチンへの煮えくり返るような怒りを感じていた。「悪態をつきたくないんです。ただ、あの男が心底憎いんです。私たちにどれだけの苦しみをもたらしたか見てください」と彼女は語る。

ロシアが軍備増強を始めた秋の期間中だけでなく、ロシアの企ての危険信号は何年も前から明らかだったとコヴァルチョクは言う。「なぜ世界はこれまでウクライナに耳を傾けなかったのか、理解できません」。

犠牲者の数は二転三転

民間人の犠牲者の推定は信頼性が低く、戦時下では双方の情報機関によって容易に操作される。消防署や救助隊を管轄するウクライナ政府機関は2日の声明で、2000人が死亡したと発表した。しかし、同機関は後に訂正を発表し、最も信頼できると思われる報告として、死亡者数は不明だと述べた。それ以前の推定値は数百人だった。

ウクライナ最高議会の人権オンブズマンであるリュドミラ・デニソヴァは、子どもが21人死亡し、54人が負傷したと声明を発表した。

地下鉄の駅に、今は死に体となったキエフの不動産市場で働いていた弁護士のユリア・ゲラシメンコが、娘のユリアナと移ってきたのは、戦争が始まった先週の2月24日の夕方だった。偶然にも、彼女の6歳の息子は、ロシアによる侵攻が始まったとき、キエフ郊外の祖母のところに滞在していた。息子らは無事に脱出し、今はドイツにいる。夫は職業軍人で、ウクライナ軍と共に戦っている。

彼女は、息子が無事でいてくれて嬉しいと語った。「ですが、息子のそばにいてあげられないことが残念です」。

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