小田急の運転席、他社と一味違う「添乗者」の任務 運転士「実は孤独」後輩も声がけ安全パトロール

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添乗のスケジュールは2日前に決めるが「普段通りの作業を見る必要があるので基本的に運転士に予告はしない」(関口さん)。足柄から新松田まで上りの各停、新松田から秦野までは急行、今度は秦野から下りの急行で戻って……と、どの駅からどの駅まで、だれが乗務している電車に添乗するか、効率よく複数の運転士を見て回れるよう「パズルのように組み立てる」(関口さん)のが腕の見せどころだ。

添乗では、作業の知識・技能についての確認、各駅や区間の注意点など、多岐にわたって運転士とコミュニケーションをとることにしている。とくに足柄電車区の場合は、他社線である小田原―箱根湯本間の箱根登山線に乗り入れる機会が多いため、同区間特有の勾配やカーブ、サルやシカとの“遭遇”に関しても注意喚起する。

運転士側から見ると、新人だと週に1回、それ以外は1、2カ月に1回程度の頻度で添乗を受けることになる。「もちろん前方を注視しながらですが、運転士を育てるときには、わざと作業が輻輳しているときに質問を投げかけ、なにがあっても対応できるかチェックすることもあります」(関口さん)。

乗務員室の中ばかりでなく、客室から観察することや、「定点」と呼んで駅にとどまって、やってくる電車の運転士に声をかける場合もある。乗務終了が近い運転士には「あともう少しだから頑張れよ」と励ます。

同僚が添乗「よい刺激に」

こうした助役や指導主任といった上司による見回りにとどまらず、同僚の運転士が添乗して声がけをできるようにしようと始めたのが安全パトロールだという。2019年に足柄電車区で開始し、評判がよかったため2021年から全社的にほかの電車区・車掌区でも実施するようになった。

関口さんは「普段の添乗ならば上司が部下を見て回るので萎縮してしまうが、仲間内から声をかけられたらよい刺激になってモチベーションが上がるのでは、と始めた」ときっかけを語る。足柄の場合、約100人の運転士がいて15~16人ずつ6つの「組」に分かれている。安全パトロールの担当者は通常の仕業を外れることになるので頻繁に実施するわけにはいかないが、8~9月と1~2月の年2回、各組から1人を選ぶことにしている。

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