中国が直面する高成長モデルの終わり 日系企業のビジネスも転換点に

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それだけではない。現地の所得や消費の水準も急速に上昇している。この上昇を背景に、中国人のさまざまな意識も急速に変化しており、それが日系企業の中国ビジネスを苦しめる状況になっているようだ。

在上海の経営コンサルタントが、ある日系メーカーの話を教えてくれた。そのメーカーは中国の工場で生産した製品をもっぱら日本に輸出してきたのだが、社長が高齢になったことから、中国人幹部に会社をまるごと譲渡しようと考えた。現地採用の従業員としては、昇進どころではない大抜擢だ。ところが中国人幹部の答えは「ノー」。その理由は、日本向けのビジネスは工賃も単価も安く、うまみがないからだという。同じ製造業をやるにしても、中国企業向けの仕事の方がもうかる、というのだ。

また上海近郊に工場を構えるある日系メーカー駐在員からは、地方都市に住む両親から仕送りを受けている若い工場従業員の話を聞いた。中国の出稼ぎ労働者といえば、一所懸命に働いて地方の家族に仕送りをするのが定石だったがこの従業員は工場の給与では生活できず、仕送りを親にねだっている。

「この従業員を厳しくしかると、親が『そんな会社で働かなくていい。帰ってこい』となるんですよ」と駐在員はため息をついた。この工場はかつて600人の従業員を抱えていたが、採用難で現在は半分程度の規模で操業しているという。工場勤務であっても日系企業で働ければ豊かになれるというイメージは、もう中国人からは消えつつある。

「チープ・チャイナ」はもはや過去

週刊東洋経済2014年11月15日号(10日発売)の特集は「中国暗転 高成長の終わりと日本企業の商機」。全40ページの特集です(上の画像をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

ホワイトカラーからブルーカラーまで、安い給与で豊富に人が雇える「チープ・チャイナ」はもはや過去のものだ。コスト増に耐えかねた日系企業の中には、中国から撤退する例もじわじわと増え、中国ビジネスは明らかに転換点を迎えている。そしてこの局面は、中国経済そのものにとっても大きな転換点だ。安価な労働力と引き替えに世界中から投資を呼びこむ高成長モデルは終わり、内需主導の安定的・持続的な経済成長を目指そうとしている。

一方で、記者が体験したような「エクスペンシブ・チャイナ」に耐えうる豊かさを、すべての中国人が得ているわけではない。北京大学中国社会科学調査センターによると、中国の上位1%の富裕家庭が全個人資産の3分の1を握る一方で、下位25%の家庭は資産のたった1%しか所有していないという。過去30年の高成長が残した格差やひずみを、中国はこれから解消していかなくてはならない。

杉本 りうこ フリージャーナリスト

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すぎもと りうこ / Ryuko Sugimoto

兵庫県神戸市出身。北海道新聞社記者を経て中国に留学。その後、東洋経済新報社、ダイヤモンド社、NewsPicksを経て2023年12月に独立。

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