「証拠に手をつけるというのは私たちの常識にはない」。FD改ざん事件で大林検事総長が異例の記者会見

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同月8日ころには、FD改変は過誤だと説明できるような話を考えておくようにと前田容疑者に重ねて指示した。同月10日ころには、前田容疑者が提出した「本件FDのデータ確認作業中、本件データが過誤によって改変された可能性はあるが、本件FDが(村木氏側に)還付されていて改変の有無は確定できない」との上申書について、その内容を基本的に了承する一方、より合理的な説明内容とするよう指示するなどして、「過誤によってFDが改変された可能性はあるが改変の有無は確認できず、改変されていたとしても過誤に過ぎない」と事実をすり替えることで、FD改ざんという証拠隠滅の罪について捜査を行わなかった。

「検察の不祥事であるほか、容疑者は罪を認め、反省もしているから事件の詳細について可能な限り話す」とした10日前の前田容疑者の起訴時とは一転、最高検のナンバーツーである伊藤鉄男次長検事ら会見に同席した最高検幹部3人は、事件の詳細について聞かれると「2人とも否認しているので刑事訴訟法上、捜査の中身は答えられない。公判で明らかにしていく」の一点張りだった。「『大阪地検内のどこで前田容疑者に指示したか』くらいはいえるでしょう」などと業を煮やす記者団に対して、「『公判前整理手続きの中身は秘密にわたる』と法律に書いてある」と取り付く島もなかった。
 
 ただ、「大坪容疑者や佐賀容疑者の起訴は物証に乏しく供述調書に頼ったものでは」との趣旨の再三の質問には、「有罪を得るのに十分な証拠があるから起訴した」と伊藤次長検事は繰り返した。一方で、「大坪容疑者や佐賀容疑者は黙秘を続けていたのか」との質問には、「犯行事実を認めていないということで、黙りこくっている状態ではない」と、20日前の逮捕以来初めて、取調室の状況について言及した。

法務省は21日付で大坪容疑者や佐賀容疑者を懲戒免職とした。両容疑者は人事院に不服申し立てをする見通し。検察の処分や退官の状況は以下のとおり。複数同時の懲戒免職は戦後初で、前田容疑者が戦後6人目、大坪容疑者と佐賀容疑者が戦後7人目と8人目。8人同時の検察処分は過去最大。すでに懲戒免職となっている前田容疑者を含めれば9人。国井検事は前田被告からFD改ざんの事実を聞きながら上司への報告が遅れたことが処分理由。

当時の肩書き  氏名   現在の肩書き   処分内容
最高検検事総長  樋渡利秋 すでに退官   
  同次長検事  伊藤鉄男 最高検次長検事  訓告
大阪高検検事長  中尾 巧 すでに退官
  同次席検事  太田 茂 京都地検検事正  戒告
大阪地検検事正  三浦正晴 福岡高検検事長  減給1カ月※辞職予定
  同      小林 敬 大阪地検検事正  減給4カ月※辞職予定
大阪地検次席検事 玉井英章 大阪高検次席検事 減給6カ月※辞職予定
   同特捜部長 大坪弘道          懲戒免職
  同特捜副部長 佐賀元明          懲戒免職
  同主任検事  前田恒彦          懲戒免職※11日付
  同検事    国井弘樹 大阪地検検事   減給1カ月
(注)敬称略。三浦氏の当時の肩書きは改ざん時。小林氏は犯人隠避時  
 
(山田雄一郎=東洋経済オンライン)

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