「証拠に手をつけるというのは私たちの常識にはない」。FD改ざん事件で大林検事総長が異例の記者会見
大林検事総長は、大阪地検の元主任検事・前田恒彦容疑者の改ざんを知ったときの心境や、大坪容疑者や佐賀容疑者の犯人隠避を知ったときの心境、3人の元検事の逮捕を決断したときの心境を聞かれて、「『信じられない』と(いう心境)。証拠に手をつけるというのは私たちの常識にはない。(大坪容疑者や佐賀容疑者が改ざんを)隠蔽しようというのも『信じられない』。逮捕は『残念だな』と(いう心境)」などと当時の心境を振り返った。
「村木事件は最高検も捜査や起訴を了承した事件。その最高検の捜査を国民は信用しないのでは」との質問に大林検事総長は、「(くさいものに)ふたをするのではないか、(検察組織に)不利なことを調べないのではないかという懸念から、(捜査チームの人選では、大阪地検特捜部の)付近にいたヒトや、(大阪地検特捜部と)個人的に関係のあるヒトを避けた。最高検は若いヒトと縁がないので、やむを得ず最高検で(捜査チームを組むこととなった)。厳正な捜査をしたい、その一心である。これは断言していい」と理解を求めた。
「今回の事件の根本原因はどこにあったのか」との質問に大林検事総長は「報道で指摘されている特捜部のあり方の問題や人事の問題など複合的な要素があったのだろう。(根本原因がどこにあったのかは)検証作業を踏まえていずれ具体的に発表する機会があると思う」と述べる一方、「『どの点が』と強調すると、(検証作業の)結論に影響するとまずい」として、具体的な指摘を避けた。
検事総長としての責任の所在や引責辞任の可能性を問われると、「えー」と長い間を取ったあと、「検察にとっては信頼を回復することが重要。徹底した検証を行い、さまざまな問題点を受け止めて改革策を講じる」と述べるにとどまった。
「検証作業を受けて抜本対策を施したあとも検事総長にとどまるのか」との質問には「(検証作業を受けての抜本対策は)相当の決意をもってやらないといけない。(検察組織の)現場は真面目に職務をしている。(抜本対策を講じることはその真面目に職務をしている)現場に大きな負担をかけることになるが、変えられることは変えていきたい」と現場への配慮を示したうえで、「(現段階で、抜本対策は)いつ終わるか分からない。どの段階でどうするかは今は言えないことを理解してもらいたい」と明言を避けた。
会見で配られた「公訴事実の要旨」によれば、前田容疑者がFDを変造したという証拠隠滅の罪を犯した者であると知りながら、大坪容疑者や佐賀容疑者は共謀し、2010年2月1日ころ、前田の証拠隠滅を知った他の検事らに他言を禁じたうえ、翌2日ころに、東京にいた前田容疑者に「FD改変は過誤によるもの」と説明するように指示。一方で、大阪地検のナンバーツーである玉井英章次席検事に「前田がFDのデータ確認作業を行ったことをデータの書き換えであると公判担当の検事が問題としたがそれは言いがかりにすぎない。FDは還付されていて改変の有無を確認できないうえ、データが変わった可能性があっても確認作業中の過誤に過ぎない」と虚偽の報告をした。
翌3日ころには、大阪地検のトップである小林敬検事正に、「前田がFDのデータ確認作業をしたことをデータの書き換えだと公判担当の検事が騒いでいるが、言いがかりであり問題はない」と虚偽の報告をし、玉井次席検事や小林検事正に「捜査は不要」と誤信させた。