コロナ禍を機に大衆化、「シベリア鉄道」の大改革 かつては極東とウクライナを結ぶ直通客車も

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さて近年、ロシア鉄道では1等寝台車エスヴェーが大幅に減少している。ロシア号でも改正前はエスヴェーが連結されていたが、新型客車導入後はクペー、プラッツカルトのみとなった。

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2020年末におけるエスヴェー車両の平均車齢は14.6年とのこと。2016年には約870両あったが、2020年末には約500両に減少したという。また多くのエスヴェーは寝台内のコンセントも少なく、自動販売機は存在しない。少しずつ現代のニーズから取り残されているのが実態のようだ。それでいてエスヴェーの料金はクペーの2倍以上なので、利用者にとってコストパフォーマンスは悪いと言わざるをえない。

2021年8月にはロシアのS7航空グループが中央ロシアを拠点とする新LCC会社「シトラス」の設立を発表。2022年7月の就航を目指し、中央ロシアの都市を結ぶ航路を設定するという。シトラス社がシベリア鉄道にどのような影響をもたらすかは不明だが、少なくともコストパフォーマンスが悪い車両を放置する余裕はシベリア鉄道にはなさそうだ。

またシベリア鉄道を利用するビジネスマンは空港がある街からない街への移動が多く、1泊2日などの短距離利用者がほとんどだ。このような背景を踏まえて考えるとエスヴェーの需要はますます減少することが予想される。

ウラジオストク発ウクライナ行き列車が存在した

ところで2月22日にロシアはウクライナ東部にある「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」を国家承認し、ロシアとウクライナの対立は新たな局面を迎えている。ここでは簡単にシベリア鉄道とウクライナの関係について触れておきたい。

ロシア人とウクライナ人は共に東スラヴ語群に属し、切っても切れない関係にある。現にロシアにも多くのウクライナ人がおり、ウクライナの首都キエフではロシア語をよく耳にした。

このようなロシアとウクライナの関係はシベリア鉄道のダイヤにも反映されていた。1984年ソ連時刻表を見るとウラジオストクーウクライナ・ハリコフ間の列車が設定されていた。全行程を乗るには1週間以上かかり、日本人の目から見ると「さすがに完乗する人はいないだろう」と思うかもしれない。

ハバロフスクにあるウクライナ料理店。ウクライナ語で「ウクライナ料理」と書かれている(筆者撮影)

実は需要は存在したのだ。19世紀から20世紀初めにかけて多くのウクライナ人が極東ロシアに移住し、現在でもウラジオストクやハバロフスクではウクライナ料理店が目につく。キエフ在住のウクライナ人の友人によると、1990年代に極東ロシアに住む親戚がシベリア鉄道を使ってキエフまで訪ねてきたことがあるという。

ソ連崩壊後もハリコフ行き列車は運行され、ウラジオストク駅には青色に黄帯のウクライナ鉄道の客車が乗り入れていた。残念ながら、この列車はコロナ禍以前から運行を休止している。

いずれにせよ、ロシアとウクライナの対立が早期に収束することを願いたいものだ。

新田 浩之 フリーライター

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にった ひろし / Hiroshi Nitta

1987年兵庫県神戸市生まれ。2013年神戸大学大学院国際文化学研究科修了。関西の鉄道をはじめ、中欧・東欧・ロシアの鉄道旅行、歴史について執筆。2018年にチェコ政府観光局公認の「チェコ親善アンバサダー2018」に就任。

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