10人に1人が「エネルギー貧困」に?英国の超深刻 爆上がりするエネルギー料金に悲鳴も

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国民の窮状を助けるため、政府は支援策を発表している。リシ・スナク財務相は、2月3日、1世帯当たり最大350ポンドの支援策を発表した。具体的には、イングランド地方に住む80%の世帯に対し、4月から150ポンドの住民税の払い戻しを行うという。自治政府が置かれているスコットランド、ウェールズ、北アイルランド地方でも同様の措置が取られる見込みだ。また、10月からは家庭の電気料金から200ポンドを割り引く制度を適用する。ただし、この払い戻し分は後で国民が国庫に戻す仕組みだ。「貸した」だけ、ともいえる。

政府の「バラマキ」策による支援額は、電気・ガス料金が標準世帯で年間約700ポンド上昇することを考えると、十分ではないのは明らかだ。

値上げは中・低所得家庭を直撃する

また、大きな問題はイングランド中央銀行が予測しているように、インフレ率がさらに上昇する見込みであること。エネルギー価格の高騰もすぐには変わるようには思えない。オフジェムは夏に上限金額の見直しをするが、さらに上げる可能性が高いという専門家の見解を先に紹介した。

ということは、政府はいつまでもバラマキ策を続ける必要が出てくる。金額もどんどん大きくしなければならなくなる。原資は税金になるわけだから、国の負債は膨らむ一方となる。

シンクタンクのレゾリューション財団は、「特に、生活費の中でエネルギー価格が占める割合が多い中・低所得家庭に大きな打撃となる」と予測する。一般的な家庭(税金と住居費を支払った後の所得が約420万円)の場合、公共料金と税金だけで支出が月間8万円ほど増加すると見ており、「生活水準が破滅的になる」。

ブルームバーグの報道によると、すでに220万人が月の収入の1割をエネルギー料金に費やす「エネルギー貧困」の状態にあるが、これが660万人になるとレゾリューションは予測している。つまり、10人に1人がエネルギー貧困に陥る見通しだ。

イギリスには、無料で食品や日用品を受け取ることができる「フードバンク」が約2000存在する。そのうちの1300を運営する慈善団体タッセルトラストでは、コロナ禍による生活苦で、配った緊急食料品セットの数が急増したという。大型スーパーの入り口には、寄付用のグッズを入れる大きな箱が置かれ、いつ見てもたくさんの食料品が入っている。

もう寄付に頼るしかないのだろうか。4月でも寒い日が多いイギリスで、食費を確保するために十分な暖を取れない人が増えそうだ。

小林 恭子 在英ジャーナリスト

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こばやし・ぎんこ / Ginko Kobayashi

成城大学文芸学部芸術学科(映画専攻)を卒業後、アメリカの投資銀行ファースト・ボストン(現クレディ・スイス)勤務を経て、読売新聞の英字日刊紙デイリー・ヨミウリ紙(現ジャパン・ニューズ紙)の記者となる。2002年、渡英。英国のメディアをジャーナリズムの観点からウォッチングするブログ「英国メディア・ウオッチ」を運営しながら、業界紙、雑誌などにメディア記事を執筆。著書に『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』。

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