10人に1人が「エネルギー貧困」に?英国の超深刻 爆上がりするエネルギー料金に悲鳴も

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次第にパニックは収まったが、その後も、世界的なガス価格の高騰が物価をじりじりと上昇させていった。現在、筆者の電気・ガス料金は毎月135ポンド(2万1000円)にまで増大した。

今年1月、イギリスの国民統計局は昨年12月の消費者物価指数が前年同月比5.4%上昇した、と発表した。前月の5.1%上昇からさらに加速し、1992年3月以来、30年ぶりの高い水準である。イギリスの中央銀行(イングランド銀行)が目標とするインフレ率2%をかなり上回る数字だ。最大の押し上げ要因は食品・飲料。中銀の予想では、4月にはこれが7.25%まで上がるという。

今月3日、物価高騰に歯止めをかけることを狙った中銀は、政策金利を0.25%引き上げ、0.5%に。12月に続いての、追加の引き上げとなった。

平均家庭でガス料金は年10万円上昇

実際に、どれほどの金額が生活を直撃するのだろうか。

具体的な数字が見えたのは、今月3日、イギリスのガス・電力市場監督局(オフジェム)がエネルギー価格の上限を引き上げることを発表したときだった。

イギリスではエネルギーの小売価格に上限を設けている。年に2回、改定される仕組みだ。天然ガス価格の高騰を受けて、オフジェムは4月から6カ月の価格上昇の上限を54%とした。標準的な家庭の場合、そのガス・電気使用料は年に1977ポンド(30万7000円)に達する。前回(2021年10月から2022年3月)は、上限が1277ポンドだったので、約700ポンド(10万円)の増加である。

次回の見直しは今年8月。エネルギー専門家らの分析によると、世界的なガス価格の高騰が鎮まらない限り、「上限をさらに上げざるをえない」。

所得税の上昇も打撃となりそうだ。政府は、コロナ禍を機に新たな「健康・介護税」分を徴収することにしたのである。ネットの接続費用も値上げとなるほか、毎年の恒例だが鉄道運賃も上昇する。タイムズ紙の試算によれば、石油は年間約200ポンド、ガソリンは180ポンド値上げになる。

どこもかしこも値上げに向かう一方で、賃金の上昇率の平均(2021年9月から11月)は4.2%(国家統計局調べ)。物価上昇に賃金の増加が追いついていないのである。

ネットの世論調査会社「ユーガブ」によると、物価高騰を「生活費を切り詰めなくても生活していける」と答えた人は19%。「切り詰めれば、何とかやっていける」人が45%。「切り詰めても、やっていけない」が20%だった。

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