地元民も知らない「山城」で覚醒、驚異の町おこし 千葉県多古町、「何もない町」が日本一になった

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ほかにも昨夏には、小学校からすぐ近くの山城を活用して、小学6年生を対象にフィールドワークを実施、山城を通じて多古町の歴史を伝えた。

2022年3月には東京駅から多古町に高速バスを乗り入れるジェイアールバス関東と連携して、町内の山城をめぐるバスツアーを催行する。バスは同社が保有する最も古いバスを活用、リーフレットには「ガタゴトバスでGO」の文字が躍る。

中世考古学が専門で高知県立埋蔵文化財センター所長の松田直則氏は、「これまでは城といえば、城そのものの魅力を発信することが多かったが、多古の事例は城を起点に地域の歴史を発信している点が興味深い」と指摘する。

千葉県全域に広がる取り組み

こうした取り組みは周辺にも広がりつつある。

御城印は、小室さんのプロデュース、むつみさんの監修・デザインの下、千葉県全域に広がっている。現在は79に拡大。月2~3のペースで増えており、今年中に100を超える見通しだ(千葉県の御城印の一覧はこちら〈千葉県観光物産協会のホームページ〉

多古町に隣接する匝瑳市では、2021年11月に城郭保存活用会が発足した。多古町以外でも東総地域には数多くの山城が存在している。むつみさんは「山城には歴史的なつながりがあるケースもあり、そうした背景を打ち出せば、広域連携のきっかけになる」と指摘する。

内房の袖ケ浦市では、イオンの商業施設開発に伴い山城の遺構が発掘された。しばらく放置されていたが、昨年8月、御城印の発行に伴って保存の機運が高まった。2022年2月には、その「蔵波城」の遺構をめぐるバスツアーが開催される予定だ。

千葉県には54市町村があるが、それぞれに山城があるという。千葉県観光物産協会の石田文夫チーフアドバイザーは、「地域がその特性に合わせて山城をいかに活用するかが重要。食、自然、歴史。山城に何を掛け合わせて発信するかが大事になる」と話す。

山城は全国には3~4万あると言われる。いわば各地にある眠れる遺産だ。地元の人たちさえその気になれば、資金がなくても整備できる点も魅力。地元参加のイベントから観光まで。山城を使った町おこしの可能性が広がっている。

並木 厚憲 東洋経済 記者

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なみき あつのり / Atsunori Namiki

これまでに小売り・サービス、自動車、銀行などの業界を担当。テーマとして地方問題やインフラ老朽化問題に関心がある。『週刊東洋経済』編集部を経て、2016年10月よりニュース編集部編集長。

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