北京「2度の五輪」で鉄道網はどれだけ進化したか 新しい高速鉄道は一般観客なしで力発揮できず

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京張都市間鉄道は北京での冬季五輪開催が決定した翌年の2016年に着工、わずか4年半で完成した。北京市内のターミナル駅として新装された北京北駅と張家口(旧:張家口南)駅間の総延長は、在来線と比べ20km以上短い172km。郊外区間は最高時速350kmで走れる設計だ。延慶区へはトンネル内に設けられた八達嶺長城駅で分岐し、2020年12月に完成した延慶支線に入る列車を利用する。

走る列車は中国の高速鉄道でも最高速を誇る「復興号」で、同鉄道では復興号の1タイプである「CR400BF」型の中でも自動列車運転装置(ATO)を搭載した「CR400BF-C」が使われている。同型式はいわば北京冬季五輪用仕様として作られたものだ。観客入場ができなくなったため、取材記者や選手輸送に使われる。

2編成のうち1両は、取材スタッフが仕事しやすいようテーブルを大きくした「多功能車」となっているほか、連結部にはスキー板を立てるスペース、さらにはドーピングテストのために取るサンプルを収めて置くスペースも設けられている。また、CR400BFと比べて先頭部の形状を改良したことで空気抵抗を10%前後低下させ、エネルギー消費量を8%削減したという。万一の停電時に備え、列車を近隣駅に動かすためのバッテリーも搭載した。

トンネル内の八達嶺長城駅は尾根から深度102mにあり、高速鉄道の駅としては地表からの深度が世界で最も深い地点にあるという。同駅は長城観光にも便利な位置に設けられたが、コロナ禍の影響で観光需要が少ないだけでなく、五輪開催に合わせて人流管理を行っており、目下、北京市内と同駅を結ぶ列車は1日3往復にとどまっている。

並行在来線は清朝時代に敷設

北京―張家口間は、在来線列車で移動すると3時間強かかるが、高速鉄道で移動すると北京北駅から張家口リモート会場方面につながる崇礼支線の終点・太子城駅までの177kmをわずか47分で結ぶ。

在来線の八達嶺駅(筆者撮影)
青龍橋駅のスイッチバックに入る列車=1986年4月(筆者撮影)

こうした短時間でのアクセスが可能になったのは、急勾配の区間をトンネルで短絡しているからにほかならない。万里の長城がある山は、総延長12kmの新八達嶺トンネルによってわずか数分で走り抜ける。

同区間を通る並行在来線「京張鉄路」は、中国人の手による初の鉄道路線だ。清朝末期の1909年に完成している。

京張鉄路を設計した「中国鉄道の父」と呼ばれる鉄道技師の詹天佑は、八達嶺長城のすぐ南側にスイッチバックを設けることで急峻な山岳地帯越えを解決。スイッチバック駅である青龍橋駅には詹天佑の銅像とともに、同氏夫妻の墓地がある。

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