日本を惑わす「そう見えるでしょう経済学」の盲点 「財政出動で経済は必ず成長する」には根拠なし

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単純な相関関係を根拠に「政府支出を増やせば経済は成長する」と主張するのは、典型的な「そう見えるでしょう経済学」だといいます(撮影:尾形文繁)
オックスフォード大学で日本学を専攻、ゴールドマン・サックスで日本経済の「伝説のアナリスト」として名をはせたデービッド・アトキンソン氏。
退職後も日本経済の研究を続け、日本を救う数々の提言を行ってきた彼は、このままでは「①人口減少によって年金と医療は崩壊する」「②100万社単位の中小企業が破綻する」という危機意識から、『日本企業の勝算』で日本企業が抱える「問題の本質」を徹底的に分析し、企業規模の拡大、特に中堅企業の育成を提言している。
今回は、「政府支出を増やせば経済は成長する」という説のどこがおかしいか、徹底的に解説してもらう。

今回の記事のまとめは、以下のとおりです。

(1)積極財政派は、緊縮財政が原因で日本経済が成長していないと主張している
(2)その理屈は単純
(3)政府支出増加率とGDP成長率との間に、0.91という極めて強い相関係数がある
(4)近年の日本の政府支出増加率が先進国の中で極めて低いから、GDP成長率も低いという
(5)しかし、政府支出増加率とGDP成長率の間の相関係数0.91は、ただの相関関係
(6)事実、税収とGDP成長率の相関係数も0.87である。よって、単純に相関関係だけを見るならば、「増税をすれば経済が成長する」という理屈も成立する
(7)政府支出と経済成長がどう連動しているのか、因果関係をしっかりと確認するべきである
(8)海外の経済学者は、財政支出を増やせば経済が成長するという因果関係のエビデンスは乏しいとしている
(9)逆に、経済が成長するから政府支出が成長するというワグナーの法則はいまだに最も有力
(10)今は労働参加率が史上最高水準なので、単なる量的景気刺激策も効果がない
(11)したがって、財政出動は慎重に、乗数効果の高い生産的政府支出(PGS)を集中的に増やすべきである
(12)「新しい資本主義」を標榜するのであれば、政府の支出は研究開発、設備投資、人材投資を中心に行うべきである

「財政出動すれば経済は復活する」という俗説

最近、政府支出の増加率と経済成長率の相関を表したグラフをよく見るようになりました。

出所:島倉原「緊縮財政国の経済は停滞し、積極財政国の経済は繁栄する」(『表現者クライテリオン』2018年7月号)より転載

このグラフを見ると、政府支出の伸び率が大きくなるほど、GDPが伸びるような印象を抱きます。実際、この少なすぎるデータを充実させて回帰分析をやり直しても、政府支出の伸び率とGDP成長率の相関係数は0.91と、非常に高い数値であることが確認できます。これだけを見ると、両者が密接に連動していることがわかります。

一部の日本の経済評論家はこのデータを根拠に、「財政出動するほど経済が成長する。これは世界的にも共通の傾向だ」と主張しています。自民党の中でも、この相関に注目している議員が少なくありません。

次ページ「財政出動すれば経済は復活する」主張の論旨を読み解く
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