卵泥棒と蔑まれた恐竜は決死で子を守る親だった オビラプトルの化石からわかった「親の愛」の真実

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あるいは、大洪水もその条件の一つだ。洪水が起これば、一気に土砂が押し寄せる。

こうして、土砂の下に埋まれば、化石になる条件が整うのである。 オビラプトルの化石は、巣の中で、卵と一緒に見つかった。

最初は卵泥棒と勘違いされてしまったが、現在では卵を抱いたまま化石になったと考えられている。

逃げ惑ったり慌てふためいたりしたのではない

逃げ惑う状態で化石になったわけではない。あわてふためく姿が化石になったわけでもない。

おそらくは、火山灰が降り積もる中で、オビラプトルは逃げようとはしなかった。

おそらくは、迫り来る土砂の中で卵のそばを離れなかった。

そして、卵を守り続けたまま、化石となったのである。

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オビラプトルは、卵泥棒ではない。

オビラプトルは、そういう恐竜だったのである。 恐竜ははるか昔に地球に存在し、今では絶滅してしまった生物である。

こんな大昔の生物に「親の愛」があったのだとしたら、と考えると、それはとても不思議な感じがする。 親の愛というものは、いったいどのようにしてこの世に生まれたのだろうか。

親の愛というものは、どのようにして進化を遂げたのだろうか。

そして、進化の頂点にある私たちホモ・サピエンスの愛は、オビラプトルよりも、ずっと進化したものなのだと言えるのだろうか。

本当に不思議である。

稲垣 栄洋 静岡大学農学部教授

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いながき ひでひろ / Hidehiro Inagaki

1968年静岡市生まれ。岡山大学大学院修了。専門は雑草生態学。農学博士。自称、みちくさ研究家。農林水産省、静岡県農林技術研究所などを経て、現在、静岡大学大学院教授。『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)、『都会の雑草、発見と楽しみ方』 (朝日新書)、『雑草に学ぶ「ルデラル」な生き方』(亜紀書房)など著書50冊以上。

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