台湾鉄道の信頼回復担う「日立製新型特急」の実力 相次ぐ事故と座席供給不足のイメージ払拭狙う

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東部幹線の優等列車は高速鉄道(新幹線)との接続を考慮して台北近郊の副都心に停車する列車が多いが、この列車は台北を出ると、東部幹線の北部側の主要駅である宜蘭まで停まらない直達型の停車パターンとなっている。

台北駅を出るとすぐに加速し、台北近郊を高速で走行。山間部に入るとその足並みは落ちるものの、持ち前の加速力を発揮して加減速を繰り返し、雪山山脈のふもとを越える。振り子式のTEMU1000やTEMU2000に比べると騒音やカーブでの振動が気になるものの、車体の傾きによる不快感は低減された。山間区間を抜け、太平洋の海岸線を左手に臨むと列車は再び加速を重ね、宜蘭に到着した。

翌朝、台北に戻るために利用したのは411次列車のビジネスクラス。車内は満席で、発車するとすぐに専用エプロンを身に付けた客室乗務員が、事前予約していた軽食と飲料を運んできた。軽食類はカートから直接選ぶこともできる。メニューにある限定弁当は時間帯によって提供する区間が決まっており、短距離区間だと選択できない場合があるなど、ソフト面でも長距離客に対する配慮が見られる。

ビジネスクラスでは客室乗務員が座席まで軽食類を運んでくる(筆者撮影)

ビジネスクラスの座席は広々とスペースを取っており、カーブの多い山間部でもしっかりとしたホールド感を感じられる一方、フットレストやブランケットといった設備やサービスはなく、基本的に「広めの普通車シート」と表現するのが妥当そうだ。

車内のWi-FiはSSIDがビジネスクラスの6号車を示す「EMU3000-6」で、同クラスの乗客に対して優先的に提供していることがわかる。ただ、パスワードなしで隣接車両からも接続できることや走行区間による電波の障害を考えると改善の余地がありそうだ。

安定したメンテナンスに課題

EMU3000は、日立の鉄道車両工場である笠戸事業所(山口県下松市)で完成品として組み上げられ、台湾まで船で輸送される。

台湾の鉄道ファンの間からは「まるで日本の列車に乗っているようだ」といった好感の声もある一方、「地元で組み上げられたものではないので、はたして台鉄にしっかりメンテナンスするだけの技術が備わっているのか」と疑問を投げかける声も聞こえてくる。

実際、投入初日からトイレの故障や乗降ドアの不具合が発生した。また、TEMU2000(プユマ号)についても「日本製でそんなに古くないのに、座席に相当のガタがきている」と苦情を訴える乗客もいるようだ。

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