台湾鉄道の信頼回復担う「日立製新型特急」の実力 相次ぐ事故と座席供給不足のイメージ払拭狙う

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台北と東部各都市を結ぶ交通については、台鉄が振り子式電車を導入してスピードアップを図る一方、道路も2020年に宜蘭―花蓮間の改善工事完了で「蘇花改道路」が開通し、最大で1時間ほどの所要時間短縮が実現した。マイカーの通行量が増加したほか、高速バスも「北花線回遊号」と呼ばれるコンセントを備えた車両による新路線を開設するなど、サービスの改善が見られる。

こうした状況の中、台鉄としては高速バスに打ち勝つべく、速度面以外での付加価値を利用客に訴える必要性が高まった。そこで登場したのが、EMU3000のビジネスクラス(商務艙、定員30人)だ。台湾を初めて走った機関車の愛称から名付けられた「騰雲座艙」と呼ばれるこのシートは、横3席×10列の30席という広々とした座席配置を誇る。

ビジネスクラス「騰雲座艙」の室内(筆者撮影)

フットレストがないことやリクライニングの角度が比較的浅いことなど気になる点はあるものの、ソフト面では車内限定弁当、ハーゲンダッツのアイスクリーム、もしくはパイナップルケーキなどのいずれか1つと飲み物が選択できる飲食物の無料サービスが提供される。また、主要駅を中心に専用のチケットカウンターを設け、乗車変更も無料で受け付ける。

そのサービス内容は航空会社のエグゼクティブクラスを多分に意識している。対応に当たる客室乗務員も投入に合わせて特別に募集し、チャイナエアラインによる訓練を受けたという肝いりだ。料金は距離に応じて普通車の1.4倍~2.2倍で、長距離客に対する配慮がみられる。

トイレは編成中全車両に

2列×2列の座席が並ぶ普通車の居住性も大幅に改善された。全席にUSBの充電ソケットと100Vのコンセントを備え、Wi-Fiのサービスもある。また、編成中すべての車両に大型の荷物置き場とトイレを設置している。

トイレの数は一見過多にも感じるが、台鉄は通勤車両も4両に1箇所トイレを設置しているほか、自転車搭載スペースも設けるなど、長距離利用者を考慮した設計が特徴だ。

筆者はEMU3000の運行開始直後、台北駅を平日夜6時台に出発する台東行き438次列車に宜蘭まで乗車した。土休日の帰省・行楽需要は比較的旺盛だが、平日の普通席利用率は5割に満たない。一方、新設されたビジネスクラスは満席だった。

列車が入線する際にカメラを構える人も多かった。乗客に新型車両の印象を聞くと、「荷物置き場が増設されキャリーケースを足元に置かずに済む」「客室扉がガラス製なので、開放的で圧迫感がない」といった声が聞かれた。

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