経済の立て直しの肝「観光」を見誤った日本の失策 独や英と比べても国内旅行が圧倒的に少ない

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その意味では、コロナ禍でどん底に落ち込んだ日本経済を立て直そうとして政府が行ったGoToキャンペーンは、時期と方法論は大いに間違っていたが、「観光を活性化させる」という政策の方向性だけは間違っていなかった。日本経済を短期的に立て直すには、まずは国内旅行を促進させるのが一番だ。

そのGoToキャンペーンだが、1.7兆円という前代未聞の補助金規模に対する効果の少なさ、逆にその18%、3000億円にも及ぶ巨額の事務委託費、それに加えて新型コロナウイルスの感染者数が連日うなぎ上りの時期に始められたというタイミングの悪さから、批判にさらされ続けた。

ただ、本当に批判されるべきは、国内旅行を増やし、コロナ禍の直撃で危機にある国内旅行業を支援するために、「国民一人ひとりの旅行代金を補助する」という方法だ。これは、補助金がなくなれば後に何も残らない、まさにバブルに過ぎないバラマキ補助そのものといえる。

国内旅行の支援のために行うべきは?

本来、政策的に行われる補助は、「補助が終わった後にも消費が持続的に拡大する効果が見込まれる投資」に対して行われなくてはならない。仮に倒産の危機にある国内旅行業を支援するなら、場合によってはほかの産業への転換費用を補助するほか、補助を受けた後も継続的に売上が増えるような施設の整備、魅力ある観光地づくり、観光資源の掘り起こしなどに支援をすべきなのだ。

また、コロナ禍が過ぎた後に国内旅行客の増大につながる道路や鉄道などの交通手段の整備こそが、行うべき政策だったはずである。

だが、それ以前に当時から政府は「観光産業活性化の本質」を見誤っていた。安倍政権では来日観光客数(いわゆるインバウンド)の目標が引き上げられ、カジノを中心としたIR(統合型リゾート)の推進や観光ビザの発行基準の緩和など、インバウンド拡大のためにさまざまな政策が実行された。その結果、2011年に622万人だった来日観光客数は、2019年には3190万人に達し、その消費額は8135億円から4兆8113億円へと、それぞれ約5倍に伸びた。

しかし、かなり無理をして伸ばした4兆8113億円という数字も、日本人による国内旅行消費額の20兆4834億円(観光庁発表値、2019年4月)の4分1以下でしかない。全観光産業の売上に占める割合はわずかに18%に過ぎない。

もともと1でしかなかったものを倍にするより、もともと10であったものを1割増やすほうがずっと簡単なのは当たり前だ。国内旅行は「きっかけ」さえ作り出せば、必ず急増するのである。

経済浮揚に観光が適している理由はほかにもある。国内旅行消費額が増えると、観光産業以外の消費も「風が吹けば桶屋が儲かる」方式で増える。ひとつの産業の伸びがほかの産業に与える影響を「経済波及効果」と呼ぶが、観光産業はこれが2と、ほかの産業に比べても高い。ごく単純にいえば、観光消費額が1増えると、国全体の消費額は2増えることになるのだ。

このように、国内旅行の重要性は決して低くはないと考えられるが、世界的に見るとどうだろうか。ここではドイツ、イギリスの国内旅行と比較してみる。ドイツとイギリスを比較対象として選んだのは、この両国が日本と比較するのにふさわしい国だからである。

国内旅行に影響を及ぼすと思われる諸条件として、3カ国の面積は、日本が約38万平方キロメートルなのに対して、ドイツがその95%の約36万平方キロメートル、イギリスが同65%の約24万平方キロメートル。

人口密度もドイツが日本の70%、イギリスは86%と近い。またGDPも世界において日本が3位、ドイツとイギリスが4位と5位であり、1人当たりのGDPはドイツが日本の134%、イギリスは108%。先進国のなかでもドイツとイギリスは、日本と基本的な国力の差が比較的少ない国であり、比べる対象として最適な国であるといえる。

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