金融危機とプルーデンス政策 金融システム・企業の再生に向けて 翁百合著~政府の金融関与の論点をバランスよく整理

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金融危機とプルーデンス政策 金融システム・企業の再生に向けて 翁百合著~政府の金融関与の論点をバランスよく整理

評者 河野龍太郎 BNPパリバ証券チーフエコノミスト

 日本の金融危機は、金融システムの安定が経済の持続的発展に不可欠であることを知らしめた。しかし、ほどなく世界的な金融危機が訪れた。日本の教訓が生かされなかったとも言えるが、より本質的な問題は、金融技術革新によって大きく変貌した金融システムに、旧来の規制監督が対応できなかったことにあるのだろう。

従来は個別銀行の破綻回避を目的としたミクロの規制監督が中心であった。しかし、金融の市場化が進むにつれ、銀行以外の金融機関がより大きな役割を担うようになると同時に、金融機関の行動そのものがマクロ経済の変動を増幅する問題も大きくなった。本書は、危機防止策として、金融システム全体をにらんだマクロプルーデンスの視点から規制監督を論じる。

現在、各国で新たな規制が検討されているが、たとえば金融システムにとって潜在的脅威となりうる「重要な金融機関」について、(1)金融機能を維持しつつ、破綻処理が可能な制度を構築する、(2)そもそも、そのような存在が誕生しないよう規制する、といった異なるアプローチがある。本書では、こうした基本的論点を包括的に取り上げ、バランスよく整理している。記述も平易で、今後の規制監督を読み解くうえで参考となる。

後半では、公的金融の在り方が論じられる。今回、日本で金融危機は生じなかったが、問題がないわけではない。公的金融の存在が、民間の銀行経営に大きな影響を及ぼし、頑健な金融システムを構築する際の足枷となってはいないか。自由競争が当然視される他業態と異なり、金融では市場の失敗を前提に政府介入が容認されるが、時として政府の失敗が大きなコストを生む。今後の公的金融改革を含め、政府の金融への関与を広く考える、有用な一冊である。

おきな・ゆり
日本総合研究所理事。早稲田大学客員教授、企業再生支援機構非常勤取締役を兼務。1960年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業、同大大学院経営管理研究科修士課程修了。日本銀行で金融研究所、調査統計局、営業局などを経て、92年より日本総合研究所。

日本経済新聞出版社 4620円 392ページ

  

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