世界史の構造 柄谷行人著 ~「永遠平和」の実現の理論体系化を試みる
評者 高橋伸彰 立命館大学教授
本書の構想は9年前に『トランスクリティーク』で提示され、4年前の『世界共和国へ』では草稿も語られていた。なのに、仕上げまで「4年もかかってしまった」と、本書の出版案内で著者はいう。理由は「核心的な部分で飛躍的な発展」があったからだ。その内容を直接語らないが、逆に言えばその探求に本書の醍醐味が潜んでいる。
著者は「90年代に入って……理論は、現実を変える何か積極的なものを提出しなければならない、と考えるようになった」(『トランスクリティーク』)と述べ、思考スタイルの変容をNAM(著者が代表を務めた資本と国家への対抗運動)で実践したが、「トランスナショナルな連合」までには発展しなかった。運動を阻んだのは、「資本と国家への対抗運動そのもの」に内在する亀裂であり、それは運動が「一定レベルを越えると」、資本や国家への批判と抵抗を孕んでいる共同体(ネーション)が、逆に両者の破綻を防ごうと機能し始めるからだ。
マルクスは資本と国家が、異なる下部構造を土台にして歴史的に存在することを見過ごし、資本主義を揚棄すれば国家も自然に消滅すると考え、労働者による社会主義革命を支持した。結果的には国民国家の抵抗に遭い、革命は普遍化せずに国家独占支配をもたらし、それすらも「東欧の革命に始まりソ連の解体に及んで」崩壊した。
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