リーマンショック コンフィデンシャル 上・下 アンドリュー・ロス・ソーキン著/加賀山卓朗訳~誰がいつ、何を話したか 秀逸なドキュメンタリー
2008年9月、リーマン・ブラザーズが倒産したのをきっかけに、サブプライム危機は世界金融恐慌にまで発展した。
そこでアメリカ政府はなぜリーマンを見殺しにしたのか、と人々が疑問を持つのは当然である。リーマンは倒産したが、メリルリンチはバンク・オブ・アメリカに合併され、そして保険大手のAIGは多額の公的資金によって救済された。それによって危機は一時的に避けられたが、政府による介入によって「アメリカは社会主義国になった」という批判が共和党右派からなされている。
このリーマンを中心にアメリカの金融危機の当時の状況を、あらためて関係者に当たって詳しく書いたのがこの本である。
リーマンだけでなく、メリルリンチやシティグループ、モルガン・スタンレーなどの経営者や担当者、そして当時のポールソン財務長官やガイトナー・ニューヨーク連銀総裁などの話が当時の状況を詳しく物語り秀逸だ。三菱東京UFJ銀行からモルガン・スタンレーに振り出された90億ドル小切手のコピーも収録されている。
新聞記者としては当然のことかもしれないが、誰がいつ、何を話していたか、ということが本書の大部分である。政治の話ならこれでもよいが、しかし経済の話となると、これだけでは真相はつかめない。なぜ危機が発生し、それが恐慌にまで発展したのか、という大事な問題は、放置されたままになっている。
原題は“Too Big to Fail”(大きすぎて潰せない)だが、それにしてもポールソン財務長官を
はじめとする政府や連銀、SECの幹部たちのこの問題に対する対応を見ると、その困惑ぶりがはっきりとうかがえる。これでアメリカは大丈夫なのだろうか、という不安に駆られる。
Andrew Ross Sorkin
米ニューヨーク・タイムズ記者。金融・企業合併を専門とする。ヒューレット・パッカードのCompaq買収や、IBMによるPC製造部門のLenovoへの売却などでスクープ連発。これまでに100を超える一面記事の執筆にかかわってきた。
早川書房 各2100円 上・398ページ、下・386ページ
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