アリババ躍進を支えた「中国式ネットライフ」 グーグルもLINEも“濾過”する巨大市場

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ひとつは、その急激な普及ぶりだ。中国のインターネットユーザーは2013年末時点で6億人を突破。上海や北京では人口の7割以上が利用している。特に中国では自宅や職場でのインターネット利用よりも、スマホユーザーの爆発的な拡大によるネット利用者の増加が特徴的だ。短期間でここまで中国の民がネットに親しむようになるとは、誰が予想しただろうか。

そしてもうひとつの「予想外」が、中国という国家が総力を挙げて作り上げた、高度に洗練された排他的システムに支えられる異質なネット空間である。

中国のネット管理は「グレート・ファイアー・ウォール」という呼び名で中国大陸をぐるりと取り囲んでいるような言い方がされ、このシステムも中国語では「防火壁」と呼ばれる。ただ、どちらかというと、取り囲むというよりも、限られた海外との接続口に濾過器のようなシステムを取り付け、好ましくないサイトや情報が入ってこないように濾過してしまうところにある。

「ネットはグローバル」という常識を覆す秘密兵器

北朝鮮やイランのような原始的に接続を切ってしまうネット規制ではなく、開かれているのだが届かない、届かないのだが開かれているという、かなり摩訶不思議な性格を持つネット空間が中国大陸の中に出現している。

このネット管理の正式名称は「金盾工程(ゴールデン・シールド・プロジェクト)」である。金の盾とは格好いいが、「赤いエシュロン」との別名もある。1998年から本格的にプロジェクトが始まり、今でも継続的にその精度を高め続けている。広い意味では有名なネットポリスもこの「金盾工程」の一部だと言える。中国を包んだ金の盾は、「ネットはグローバル」という常識を覆す秘密兵器なのである。

見えない壁で中国を囲い込み、不利な情報を遮断しながら、13億人の民が幸福なネットライフを満足できるのか。習近平政権は反腐敗運動などでは庶民の拍手喝采を浴びているが、ネット管理についてはあまり評判がよくなかった。

しかし、今回中国で会った友人たちからは、どこかもうあきらめた感が伝わってくる。以前は怒っていた人も「もうとやかく言っても仕方がない」「今のままで十分に便利だからね」という反応になっていたのが気になった。実際、中国のネット環境で必要なツールは中国オリジナルのソフトやアプリがそろっている。海外勢力をほぼ排除した状況の中で、13億人の市場を思う存分エンジョイできることこそ、アリババの最大の強みなのである。

人口13億人と言えど、世界の人口に比べると小さい。それに、ネットは基本的に自らと世界をつなぎ、世界を果てしなく広げるものだ。その本来の目的を変えてしまう「中国的ネットライフ」がこのまま成功していくかどうか。もちろん成功とは何かという定義にもよるが、今、中国で行われていることが、ネットの本質を問いただす歴史的な実験であることは間違いない。

野嶋 剛 ジャーナリスト

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のじま つよし / Tsuyoshi Nojima

1968年生まれ。上智大学新聞学科卒業後、朝日新聞社入社。シンガポール支局長、政治部、台北支局長などを経験し、2016年4月からフリーに。仕事や留学で暮らした中国、香港、台湾、東南アジアを含めた「大中華圏」(グレーターチャイナ)を自由自在に動き回り、書くことをライフワークにしている。著書に『ふたつの故宮博物院』(新潮社)、『銀輪の巨人 GIANT』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『台湾とは何か』(ちくま書房)、『タイワニーズ  故郷喪失者の物語』(小学館)など。2019年4月から大東文化大学特任教授(メディア論)。

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