「アップルにソニーが2度目の大敗」の重み 9年前にもあった惨めすぎる敗戦

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こうしたXperiaの商品力強化を背景に、中国をはじめ新興国向けの商品開発や販売体制を整えて販売台数の上積みを狙うのが2014年の戦略だった。1月にラスベガスで開催された全米最大の家電見本市CESでは、2013年度中に4200万台のXperiaを出荷し、2014年度は5000万台、2015年度には8000万台以上に拡大させる事業計画を発表していた。ところが8月の第1四半期決算発表時に、2014年度4300万台と大幅な引き下げとなった。

中国製の低廉なスマートフォンが新興国市場を席巻していることが理由だ。スマートフォンの主要パーツであるシステムLSIベンダーやグーグルなどが、Androidスマートフォンを簡単に設計できるフレームワークを提供し始めており、スマートフォン市場への参入障壁が大きく下がったのが理由だ。

9月初旬に行われた平井社長への取材では「市場環境の変化を察知したため販売地域やモデルラインナップを見直した。出荷台数引き下げは新興国向け戦略を大きく見直したため」と話していた。「出荷目標や従来計画を達成するために市場環境の変化を見過ごすのではなく、環境変化を察知して素早く方針を変えて勇気ある撤退をする決断すべきときもある」(平井社長)。

最低でも事業を継続できるものの・・・

新興国市場へ深入りする前、いよいよと攻め入ろうとしたタイミングで中国製スマートフォンの急伸長、戦略見直しが入ったため、むしろ浅い傷で済んだと言えるかも知れない。今回の赤字計上で営業権の償却を済ませており、身軽になったとの解釈も可能だ。得意な高付加価値端末にフォーカスすることで、成長できるかどうかはともかくとして、"最低でも事業を継続できる"道は確保できた。

新興国におけるスマートフォン市場の環境が変化は、すでに今年前半には顕在化し始めていた。Android最大手であるサムスン電子の決算も、低価格製品を中心に中国メーカーにシェアを奪われていることを示していたからである。またアップルは2013年にiPhone 5cをラインナップに追加して中国市場に参入するなど新興国へのiPhone普及をうかがったが、iPhone 6では上位モデルへ集中する戦略に戻っている。

今後は多くの有力ブランドが新興国でのシェア拡大から距離を置き、「先進国市場の高付加価値品」でぶつかり合うことは間違いない。アップルが従来機の後継機と位置付けたiPhone 6に加え、大画面モデルのiPhone 6plusをラインナップに加えたのも、そうした業界トレンドの象徴と言える。減損処理の結果、"最低でも事業を継続できる"にしても、そこから出荷台数を上積みによる成長を遂げる道には、茨が生い茂っている。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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