静岡リニア「トンネル湧水全量戻し」本当の問題点 有識者会議の結論は妥当だったが静岡県は反発

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

その後、県は減量分の毎秒2立方メートルだけでなく、トンネル内の湧水全量を試算して、そのすべてを戻せとハードルを上げた。県の求めに応じて、JR東海は2018年10月になって、『原則としてトンネル湧水の全量を大井川に戻す措置を実施する』と表明した。減量分の毎秒2立方メートルだけでなく、湧水全量を毎秒2.67立方メートルと試算、その全量を戻すとしたのだ。この表明で、川勝知事の“命の水”問題は解決したはずだった。

しかし、今回の有識者会議結論に、新聞各紙は「全量戻しの方法示さず」などと報道。静岡新聞1面トップ記事は『表流水の量は「トンネル湧水の全量戻し」をすれば維持され、地下水量の影響も「極めて小さい」としたが、全量戻しの具体的な方法は示さず、JRと県、流域市町の協議に問題解決を委ねた』と伝え、有識者会議結論を厳しく批判した。

新聞報道を踏まえ、川勝知事は「実質は毎秒2トンの水が失われる、と(JR東海は)言っていた。毎秒2トンの水は60万人の水道水の量」などと述べたから、ふつうに考えれば、JR東海は、トンネル湧水毎秒2.67立方メートルの「全量戻しの方法」を示さなかったと考えるだろう。

静岡県民には理解できない

ところが、JR東海は、毎秒2.67立方メートルについて、導水路トンネルとポンプアップという具体的な方法で、「湧水の全量を戻す」計画を示していた。有識者会議は、JR東海の「湧水全量戻しの方法」を認めたうえで、中下流域の河川流量は維持され、地下水への影響はほぼないという結論を出したのだ。

JR東海は、最大の難工事となる、南アルプス断層帯が続く山梨県境付近の工事で、山梨県側から上り勾配で掘削、まったく対策を取らなければ、最大300万〜500万立方メートルの湧水が県外に流出すると推計した。工事期間のうち、10カ月間だけは県外流出することを当初から説明していた。

静岡県は、トンネル湧水全量の毎秒2.67立方メートル戻しをJR東海が表明してから、約1年後の2019年8月になって、「湧水の県外流出を認めない」と、さらにハードルを上げた。「全量戻し」には、「水1滴」も含まれるという主張に変わってしまった。

県内の新聞各紙が有識者会議結論に疑問を投げかけた「全量戻しの方法を示せ」とは県外流出分についてだったが、一般の県民にはまったく理解できない記事となった。

JR東海は有識者会議で、作業員の安全確保を踏まえ、静岡県側からの下り勾配よる水没の可能性などを説明した。有識者会議の専門家は、静岡県側からの下り勾配工事の危険性を認め、作業員の人命安全を優先、山梨県側からの上り勾配による掘削で、県外流出する300万〜500万立方メートルが中下流域の水環境に影響を及ぼすのかどうかを議論した。

次ページ有識者は「非常に微々たる値でしかない」と一刀両断
関連記事
トピックボードAD
鉄道最前線の人気記事