多くの人は「アラブの春」を大きく勘違いしている 欧米の基準ではイスラム教を理解するのは無理

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──教義に対し合法か違法かの判断と、現実社会で生活を営む現世的な判断との微妙なバランス。でもそれは「いつどんなタイミングで崩壊するかわからない」と。

いきなりピョーンと橋を渡り過激に走っちゃう。今ネットで過激な説教をするイスラム主義者が増えていて、YouTubeで簡単に見ることができる。「自分は間違っていた」とコロッと変わる例が結構ある。家族を残してジハードはできないと踏みとどまる人もいるし、家族を捨てる人もいる。

イスラム教には超えてはならない一線ある

──現地で雇っていた運転手さんも、揺らぎそうなタイプでしたね。

かなり厳格なイスラム教徒でした。私の取材に同行しては過激な指導者の姿に心酔していた。異教徒である日本人の下で働くのは、教義的に違法ともされる。でも彼は自分が仕事をし家族を養っていることが誇りだったので、そこは一線を引いていた。私たちもそれを信用して彼に運転を任せました。

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よくいう「話せばわかる」に普遍性はないってことです。イスラム教の世界には、越えてはならない一線がある。日本でもイスラム教徒の人が増えていますけど、私たちは彼らがイスラム教徒であることをしっかり認識して付き合っていくべきです。私たちが思う普遍的な価値観というのは、案外普遍的ではないという点を心に留めて、一緒に仕事したり、隣人として付き合ったりしていったほうがいい。

──飯山さんは常々、日本におけるイスラム研究の重鎮たちと異なる意見を発信されています。一番の違いは何だと考えていますか?

事実に基づくか、イデオロギーに基づくかです。研究者として事実に基づいて研究し、発信することを大事にしてきた。イスラム教にはコーランやハディースといった、教義が厳然と記された本が何万冊もある。そこに研究者個人の理念に反する事実があっても、見なかったことにするべきではない。

加えて、私は異教徒の女であり、そのうえ肩書もないので、向こうもストレートに、偽善抜きの正直対応をしてくる。さんざん嫌な思い、怖い思いをしたけど、それも貴重な体験です。イスラム教徒の女性が日々受ける辱めもよくわかった。酷暑の中、頭や体を覆うのは面倒だし嫌ってる女性は多い。でもそれで女性は守られる、より美しい? 「じゃあ、やってみ」って話です。

中村 陽子 東洋経済 記者

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なかむら ようこ / Yoko Nakamura

『週刊東洋経済』編集部記者

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