「強すぎる」井上尚弥が日本になぜ生まれたのか 日本人が各種競技で世界の頂点に立てるワケ
12月14日に東京・両国国技館でプロボクシングWBAスーパー、IBF世界バンタム級王者・井上尚弥(大橋)の防衛戦を取材した。強打の挑戦者ディパエン(タイ)を一方的に殴り続けて8回TKO勝ち。40年近く国内外でボクシングを見てきたが、世界戦でこれほど実力差が際立った試合は珍しい。相手が弱いのではなく、井上が強すぎたのだ。全盛期の世界ヘビー級王者マイク・タイソン(米国)の試合を思い出した。
元アマチュアボクサーの父が小1から指導
今回の勝利で世界戦は17連勝。最初の王座から3階級上げたが、むしろ強打の切れ味は鋭さを増すばかり。彼は「欧米人に比べてパワーで劣る」という日本人ボクサーの固定観念も過去のものにした。それでも試合後の会見でトレーナーの父真吾さんは硬い表情のままこう切り出した。「次の課題が見つかって余白がある。まだ伸びる」。妥協のない、その厳しい言葉を聞いて、井上がなぜ強いのか。その一因がわかった気がした。
井上は小1から元アマチュアボクサーの父の指導を受けてきた。徹底して基本をたたき込まれたのだろう。打ち合いでも体軸がぶれず、力を一点集中したパンチを高い精度で打ち込める。“日本史上屈指のテクニシャン”と呼ばれた元WBC世界スーパーフライ級王者の川島郭志さんは「強打と多彩なテクニックが注目されるが、ボクシングの土台である左ジャブとワンツーがしっかり打てる」と感心する。さらに「父親なら王者になっても厳しくできる。ずっと指導している影響が大きい」とも。