ジェフ・ベゾス自宅前「ギロチン設置」の深刻背景 金持ちが「共にコロナと闘おう」と宣言する欺瞞

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すべての金が無駄になるわけではない。おそらく3分の1くらいは、本当に困っている人々に行くだろう。

しかし、私たちが子ども世代に返済を押しつけた借金の大半は、富裕層をさらに富ますために使われた。

金持ちにはあいかわらず不釣り合いなほど大きな恩恵が与えられた。彼らは救済の行列の先頭に立つことができた。パンデミック前から銀行との親密な関係を続けてきたからだ。私たちは次世代から盗んだ金を使って、株主階級を支えたのだ。

「われわれはともにコロナと闘う仲間だ」と金持ちは言う。たわごとである。真実はこうだ。

金持ちにとってパンデミックの間は、通勤が減り、排気ガスも減り、家族の時間が増え、富も増える(周知のとおり、株価は史上最高を記録している)。いいことずくめだ。

ジェフ・ベゾス自宅前に「ギロチン」設置された背景

2.2兆ドルというえげつない新型コロナ緊急支援策は、私たちの縁故主義の表れだ。この金の多くが資本市場、特にビッグテックの株式購入に向かった。

2020年の3月から7月までで、新型コロナによる死者は世界で50万人を超えた。そのうち15万人以上がアメリカの死者だった。

ウイルスを封じ込めるためのロックダウンも効果がなく、社会は恐慌とさえ言えるほどの不況に陥った。何十という有名企業が破産を申請した。失業率は3倍になり、4月に史上最高を記録した。

同時期、私が「四騎士(the four)」と呼ぶ、アマゾン、アップル、フェイスブック、グーグル、それに加えてマイクロソフトの株価は急上昇した。

これらの株価は2020年半ばで24%上昇、時価総額は合計1兆1000億ドル増加した。8月半ばには、年度初めからのリターンがなんと47%上昇、利益は2兆3000億ドルに達した。

これらの企業の重要性はかつてないほど高まっている。この5社で、アメリカで公開されている全株式の価値の21%を占める。

富裕層は過去数十年以上の間、とんでもなくうまくやってきた。これについては山ほど記事が書かれている。なにしろデータはたっぷりあるのだから。

ショッキングなデータもある。たとえば、上位0.1%が、下位80%よりも多くの国富を所有しているとか、長者番付トップ3が、下位50%より多くの富を所有しているとか。

そして国全体としても悪いニュースがある。1983年以降、低所得~中所得世帯が所有する資産の割合が39%から21%に減少する一方で、高所得世帯の資産の割合は60%から79%に増加しているのだ。

これだけの所得格差があると、金持ちは自分の身の安全を心配するようになるかもしれない。

世界中の収入ランキングで下位半分の人々は、いつか次の点に気づくはずだ。最も裕福な8つの家族から富を奪えば、自分たちの資産を倍にできる、と。この裕福な8家族は36億人よりも多くの資産を保有している。

以上が、ジェフ・ベゾスの邸宅前にギロチンが設置された背景だ。あれは、彼の資産が2000億ドルを超えた「お祝い」だった。

スコット・ギャロウェイ ニューヨーク大学スターン経営大学院教授

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Scott Galloway

ニューヨーク大学スターン経営大学院教授。MBAコースでブランド戦略とデジタルマーケティングを教える。連続起業家としてL2、Red Envelope、Prophetなど9の会社を起業。ニューヨーク・タイムズ、ゲートウェイ・コンピュータなどの役員も歴任。2012年、クレイトン・クリステンセン(『イノベーションのジレンマ』著者)、リンダ・グラットン(『ライフ・シフト』著者)らとともに「世界最高のビジネススクール教授50人」に選出。

著書『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』は15万部のベストセラーになり、「ビジネス書大賞2019 読者賞」「読者が選ぶビジネス書グランプリ2019 総合第1位」の2冠を達成、日本にGAFAという言葉を定着させた。

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