農家と都会の企業をつなぐ新たな農業ビジネスモデル、「あっぷふぁーむ」の挑戦

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 9月には、オーナー企業の関係者を日南町に呼んで「収穫祭」を開催する予定だ。準備に駆け回る高橋さんをサポートしながら、地元農家の人たちもその日を楽しみに待ちわびている。

心の病を抱える若者をもっと受け入れたい

「農業の担い手はまだ足りない。もっと会社を大きくして、若者たちを受け入れたい」と高橋さんは話す。

あっぷふぁーむには今、高橋さんのほかにもう1人の社員がいる。茨城県出身の矢吹健太郎さん(21、上写真中)は、高橋さんに誘われて今年3月から日南町にやって来た。今では日に焼けた明るい笑顔を見せるこの青年も、心の病を抱え、実は2年以上も引きこもりを続けていたのだ。

矢吹さんは今、毎朝7時に起きて、自分が管理する2つの水田を回って農作業に取り組む。太陽の下で汗を流し、近所の人が心配して様子を見に来ると、しばし休憩して世間話に花を咲かせる。地域の共同作業に駆り出されれば、地元の誰よりも働く。
 
 矢吹さんに農業指導を行う戸崎實俊さん(78)も、「貴重な若き働き手」として頼りにしている。月給は12万円ほどだが、日南町での生活に余計な出費はないので、まったく不便はないという。

自然豊かな環境、規則正しい生活、汗を流しながらの力仕事……。これらが、都会で疲れ切った心を癒やすのは言うまでもない。だが、矢吹さんに何よりも大きな影響を与えたのは、地元の人たちとの付き合いだった。
 
 この地域では、一人では生きていけないが、毎日顔を合わせる近所の人たちとの絆は日に日に深くなる。親以上に年齢の離れた人たちとの何気ない会話が、矢吹さんに自然と笑顔をもたらすのだ。

高橋さんは、「自分のように心の病を抱える都会の人たちに、安心して暮らせるライフスタイルを提案したい」と力を込める。
(堀越 千代 =東洋経済オンライン)

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