中国の急成長を陰で支えた「2階建て列車」の功績 高速鉄道の開業前、輸送力アップの切り札に

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当時、2階建て25K型で杭州―上海間を移動することがあった。同線区の準高速化により所要時間は25B型の時代に比べて短縮され、1時間程度になった。

2階建て25K型客車内でワゴン販売する列車員。階段はワゴンを担いで上り下りしていた=1999年9月(筆者撮影)

座席の仕様は向かい合わせの固定式ながら、ソファーのような造りで快適に移動できたと記憶している。ただ、ワゴンで車内販売する列車員の女性は、1階と2階を行き来する際はワゴンを担いで階段を上り下りしていた。熱湯も一緒に運んでいたが大丈夫だったのだろうか。

高速鉄道網が広がった現在も、2階建て25Z型や25K型は短・中距離輸送に貢献している。そのほか、多客時の観光地への輸送用、そして「春臨」と呼ばれる春節時の大移動の際に臨時列車として投入されている例がある。車両の耐用年数から見て、10年ほどは中国の“在来線”で使い続けられることだろう。

最新の客車には2階建てがない

2021年時点で中国の客車の最新型は、2004年に登場した「25T型」だ。25Tの「T」はスピードアップを意味する「提速 Ti Su」あるいは「特快 Te Kuai」の頭文字だ。この客車は、高速鉄道の専用線ネットワークが生まれる前で最後となった、2004年の「第5次鉄路大提速」実施のタイミングで製造された。この時のダイヤ改正で特徴的だったのは、「夕発朝至」と称する途中駅無停車の「直達 Z列車(Zは直 Zhiの頭文字)」の運行開始だった。

25T型客車はチベットへの乗り入れ用に、気密性の高い特別仕様などその後も新造されている。しかし、これまでに2階建てバージョンはお目見えしていない。

中国における近年の大都市近郊圏の需要を考えると、2階建て車両で都市間を移動していたビジネス客層は、高速鉄道もしくは高速道路を使って自家用車や高速バスで移動するようになっている。したがって、これ以上の在来線での輸送力強化は必要がないという見方があろう。

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しかし、高速鉄道への偏重により、地方の小駅での客扱いが大量に消えた。例えば広州―深圳間では、在来線をやや古い2階建て車両が走り、小駅に止まりながら地元の人々を拾う光景も見られたが、利用客が減る中、駅が閉鎖されると同時に、安価で乗れる列車がどんどん少なくなっている。

2016年には、高速列車が在来線列車の運行本数を上回る逆転現象が起きた。2019年には在来線列車の平均速度が以前よりも遅くなったという統計も出ている。中国における「2階建て車両による鉄道の旅」は、日本の新幹線2階建て車と同様、終わる運命にあるかもしれない。

さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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