永守重信「理想と夢なくしては成しとげられない」 日本電産創業者が説く生き方・経営・運のつかみ方
――会社で言えば、経営者が会議室にこもって鉛筆なめなめしているだけではダメだと。
それは最悪だ。これまで名だたる名門校の出身の社長候補を見てきたが、経営学は学んだといっても彼らは全然現場に行かないし、泥の中に手を入れない。経営学部の教授が会社の経営をすれば成功できるかといえばできない。
だから現場を知っていないと戦いには勝てない。現場を知るということは誰が活躍して、何をやっているかわかるということだ。またご飯を食べさせてくれるところに人は集まる。会社で言えば、利益が上がって待遇がいい会社には人が集まる。ご飯を食べさせてあげられないところに人は集まらない。
当たり前のことを当たり前にやる
――永守さんは経営不振に陥った会社などを買収して何社も再生させてきました。
今年の8月に買収完了した三菱重工工作機械(現日本電産マシンツール)も赤字が続いていたが、買収して2カ月目の9月には黒字化した。「永守3大経営手法」というものがあり、『成しとげる力』の中では「千切り経営」「家計簿経営」「井戸堀り経営」として紹介しているが、それをそのとおりにやらせただけだ。
当たり前のことを当たり前にやっている。例えば、ある大企業は経営不振に陥ったときでも部長クラスは全員グリーン車に乗って出張し、タクシーチケットも毎月3冊もらったりして、それだけで何億円もかかっている。まずはそういうところから切らないといけない。
日本電産はリーマンショックが来たときにまだ数百億円の利益をあげていたが上場企業で最初に賃金カットをした。そして、真っ先に利益を回復させて賃金カット分をあとから利息をつけて従業員に返した。
――経営不振に陥る大企業は派閥の権力闘争を繰り返しているケースがあります。
敵(競合)とけんかしないで、社内でばかりけんかして調整に難儀する企業が多い。力がある人が多くてもマイナスベクトルに働いている。そこに私みたいな狼がいくと、とても厳しいから派閥でけんかしたら両方ともクビにしてしまう。
大企業では狼が出てこない。狼の社員がいると敵になってしまうから上が辞めさせてしまう。だから大きな組織の中であがる人は狼が羊化したり、逆に狼はつぶされてしまったりする。