弁護士が解説「NFTの取引」とはいったい何なのか NFTの「保有・移転」の法的意味とは?

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そこで、ここではデジタルアートに関するNFTを特に取り上げ、主に著作権法の観点から考えてみます。こうしたアート関連のNFTは、(少なくとも本書執筆段階において)取り引きが特に活発化している事例のひとつであり、読者の皆さんもいろいろなニュースなどでも実例を見聞きしているかと思います。

概念の整理

具体的な検討に入る前に、少しだけ概念の整理(言葉の使い分け)をしておきたいと思います。このあとの議論を理解するためにも大事なポイントとなります。

デジタルアートのNFTに関する話題において、一般的に使われることの多い表現は「NFTアート」という言葉ですが、これは具体的には何を指しているでしょうか。「あの著名なアーティストのNFTアートを手に入れた」とか「あのNFTアートはとても美しくて素敵だ」という言葉を耳にしたとき、その客体として指し示されているものは何だと感じるでしょうか。じつは、この「NFTアート」という用語が指し示すものには、(もちろん正確な表現を意識的に使っている方もたくさんいますが)①NFT化の客体である(デジタル)アート作品と、②NFT化した結果として発行されるトークン(NFT)という、2つの意味があるように思われます。

『NFTの教科書 ビジネス・ブロックチェーン・法律・会計まで デジタルデータが資産になる未来』(朝日新聞出版)
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この点への理解は、大変重要です。なぜなら、ここから議論する法律関係は、上記②(=トークン)のブロックチェーン上での発行及び流通そのほかの変更が、上記①(=アート作品)に関する権利・利益その他の便益にどういった影響・効果をもたらすか、という形で分解して議論する必要があるためです。この整理が曖昧なままですと、ある人が上記①の意味で「アーティストはNFTアート自体を購入者にわたしたわけではないはずだ」と主張し、別の人が上記②の意味で「購入者はNFTアートを購入してウォレットに入れたのだ」と主張しているとき、議論がまったく噛み合わないことになってしまいます。こうしたことから、本セクションでは、表のように「アートNFT」と「NFTアート」という各用語の使い分けをしています。

通常、アート作品(のデータ)自体が直接ブロックチェーン上に記録されることはありません。これは、ブロックチェーン上に大きなデータを記録することが現実的ではないためです(分散型ストレージであるIPFS2を利用するなど、何らかの形でブロックチェーン外にコンテンツのデータを保管することとなります)。そのため、小さなドット絵などがNFT化の対象であるなど、コンテンツ自体をトークンの内容として記録することが可能であるような例外的な場合を除いて、「NFTアート」と「アートNFT」とは一致しないこととなります。

そして、このように両者が一致しないときにこそ、アート作品とNFTとをどう関連付けるか(NFTの取引を通じてアート作品を取り引きしているといえる法的な状況をどう創出するか)が、いわゆる「NFT化」やその後の法律関係を明確化するうえで問題となるわけです。

(表 「アートNFT」と「NFTアート」の概念整理9)
増田 雅史 弁護士(森・濱田松本法律事務所)、一橋大学特任教授

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ますだ まさふみ / Masafumi Masuda

理系から転じて弁護士となり、IT分野を一貫して手掛ける。スタンフォード大学を経て、ニューヨーク州弁護士としても登録。特にブロックチェーン分野やゲーム・ウェブサービスへの豊富なアドバイス経験を有する。近時はWeb3・メタバース分野に注力し、「政・官・産・学」あらゆる面で法実務・法政策に関与。一橋大学大学院にて「Web3・メタバースと法」開講予定。ベストセラー『NFTの教科書』はじめ、著作・講演多数。

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古市 啓 弁護士・ニューヨーク州弁護士(森・濱田松本法律事務所)

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ふるいち けい / Kei Furuichi

ITやフィンテックなどのテクノロジー関連法務を中心として、プラットフォームビジネスにかかわる法務を横断的に扱うとともに、スタートアップ法務・資金調達の支援など豊富な経験を有する。また、所属事務所のリーガルテックプロジェクトのコアメンバーとして、AIを用いたシステムの開発プロジェクトに従事。

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