視覚障害者「駅ホーム転落事故」対策は万全か 普及進まぬホームドア設置、昇降式は難点多い

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──ホームからの転落事故はどのように起こるのでしょうか。

転落事故の大半は私たち視覚障害者が周辺の状況を把握できないことで、発生するのです。例えば、相対式ホーム(2つのホームが上下線を挟むタイプ)の立石駅で2019年に起きた事故では、点字ブロックは整備されていました。しかしホームドアはありませんでした。

私たちは列車が接近していることを音で判断します。相対式ホームの場合、手前ではなく、自分の乗らない向かい側のホームに列車が到着した場合は、私たちにはその状況が判断できないことがあります。私たちが立っているホームに列車が到着したと思い込み、点字ブロックで位置を確認したあと、列車に乗り込もうとして線路に転落します。もし、そこに列車が進入してきたら轢かれてしまいます。

──音では判断がつかない?

はい。ほとんどわからないですね。歩きながらだと、特に。

──通過する特急列車にはねられたケースがありますが、列車の通過はわかるのですか。

通過列車はスピードが落ちませんので音が変わらないままスーッと行きますから、区別がつきます。ただ、ほかのホームに違う列車が同時に侵入するとわからないこともあります。

視覚障害者に望ましい転落対策とは

──鉄道会社に対して要望はありますか。

全日本視覚障害者協議会の山城完治理事長(筆者撮影)

私がいちばん望んでいるのは、駅に係員を配置することです。特に、事故が起こった駅は、なぜ落ちたのか、構造上の問題があるのかをよく調べて、駅員さんを配置してほしい。転落事故には必ず原因がありますから。

──行政に望むことは?

現在、1日の乗降客数が10万人を超える駅でも、ホームドアの設置数は44%にとどまっています。「視覚障害者が利用する施設に近い駅」「事故がすでに起きている駅」を優先として、新線ではできるだけ島式ホーム(1つのホームの両側を列車が発着するタイプ)にしていただきたい。

また、現状では転落事故が起きた場合の救出方針が制度化されていません。命に関わる制度は国が指針を示してほしい。また、可能な限り駅員が減らされないことが望ましいと考えます。

──ほかの対策は、どの程度効果がありますか。私は視覚障害者ガイドヘルパーとして、視覚障害者のバスへの乗車をサポートしたことがありますが、ヘルパーや盲導犬の活用はどうでしょうか。

ヘルパーがいて転落したという話は聞かないので、目が見える人と歩くことは効果がありますが、介護の制度上、時間数の制限があるので、利用しにくいです。また、視覚障害者の中には1人で歩きたい人も多くいます。盲導犬もかなり効果があります。犬は人間でいえば弱視くらいにはものが見えているので、落ちないように歩いてくれます。それがガイドになるのです。

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