「物取られ妄想」に悩まされる認知症患者の頭の中 なぜ「誰かが盗んだに違いない」と誤解するのか
認知症の方には、上手にできないことがいろいろあります。食事一つとっても、箸やスプーンがうまく使えなくなって食べこぼしたり、食べるときにクチャクチャ音をたてたり、お皿をひっくり返したり。
「2泊3日」ぐらいでしたら、家族から「よく帰ってきたね、おばあちゃん!!」と歓迎され、「あらあら、大丈夫?」と快く面倒を見てもらえる期間と、ご自身でも思っていらっしゃるのですね。
ただ、さすがに3日を過ぎると、家族もため息交じりになって、「汚いからこぼさないでください」「食べるときは音をたてないで!」と、叱られてしまうと感じている方が多いようです。
本来は自分のタイミングで自由に行えるはずの排泄でさえ、「おむつ替えが大変だから、おしっことうんちは一度にしてくださいよ!」と言われてしまうと、認知症の方の心が折れるのは当然です。
「喜怒哀楽」まで失うわけではない
「心が折れる? 認知症の人は何もわからなくなっているのに?」
これは全くの誤解です。認知症の方も、介護者と同じです。叱られると怖い、悲しい。できることならば、叱られるのは避けたい。認知機能が低下したからといって、喜怒哀楽の感情までなくなるわけではありません。ですから先ほどのエピソードのように、いくら家が恋しくても、退院ではなく2泊3日という期間限定の帰宅を望むのでしょう。
すべての人間は、人としての尊厳を保ち、心豊かな人生を送れるように、「QOL」、つまり「生活の質」を向上させることが重要です。
日々の介護に明け暮れていると、どうしてもつらいときが出てきて、忘れがちになってしまうこともあるでしょう。ただ、認知症の方であれ介護者であれ、QOLの向上は人として同等の願いであることを、心に留めておいていただけたら……と、思っています。
「認知症の人も、感情は欠落しているわけではないことはわかった。しかし、非常識な行動を起こされるとやさしくなどできない!」
介護者も認知症の方と同じく人間ですから、困ったことばかり起こされれば怒りがわき、叱りつけたくなるのも当然です。どうか、イライラしたり、「もう嫌だ!」と思う自分を責めたりしないでくださいね。
ただ、それでもお伝えしたいのは、認知症の方の困った行動には、なんの企みも悪意もないということです。
話が通じないのも、こちらを困らせる行動も、その人が意図的にやっているわけではなく、認知症の中の一つの症状なのです。
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