インドのIT産業「カーストは無関係」の大誤解

能力のみが評価されると自己定義しているが…

インドといえばIT産業というイメージが強くなった理由とは……?(写真:SeventyFour/PIXTA)
13億人がうごめくインドで、理不尽なカースト制度や広がり続ける格差にもひるまず生き抜く人々。彼ら彼女らの“レジリエンス=たくましさ”の秘密に、気鋭の社会人類学者である池亀彩さんが迫りました。本稿では「IT産業とカースト」について新著『インド残酷物語 世界一たくましい民』より一部抜粋・再構成してお届けします。
(前回:『インドのカースト「ただの階級でない」意外な真実』)

なぜインドでIT産業が盛んになったのか

インドといえばIT産業と思われる方も多いだろう。インドといえば貧困というのが、私がインドに行き始めた1990年代ぐらいまでの一般的なイメージだったから、ずいぶんと地位向上したものである。

インドでIT産業が盛んになった理由として、まったく新しい産業なのでどんなカーストの出身者でも活躍できるから、という理屈を日本でも何度か耳にしたことがある。実際インドのIT産業自体が「カーストなどの出自とは無関係に個人の能力のみが評価される」と自己定義してきたのだから、日本人がそう思っても不思議ではない。

では本当に低カーストやダリト出身の人たちもIT産業で活躍しているのだろうか?

インドのIT産業は、1980年代にアメリカのシリコンバレーで働いていたインド人ソフトウェア技術者たちが母国に戻り、アメリカの企業の下請け的な仕事を安価で請け負い始めたことに始まる。

1990年代初頭、インドが自由主義経済へと舵を切り始めたことによって、IT産業は飛躍的に発展した。1990年代末に世界を怯えさせた2000年問題(多くのコンピューターが西暦の年表示を下2桁のみにしていたため、2000年になった瞬間にコンピューターの誤作動が世界中で生じるのではないかといわれていた)の処理がこうした下請けのインド企業に任されたという噂を聞いたことがあるが、その真偽は定かではない。

IT産業はこうしたコンピューターのソフトウェアに関わる専門性の高い技術職だけでなく、テレコミュニケーションや、情報技術を用いた金融業、保険、Eコマースなどのサービス産業、データ入力やコールセンターといった、いわゆるBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)産業までさまざまなタイプの事業を含む。

最近ではKPO(ノレッジ・プロセス・アウトソーシング)と呼ばれる市場調査、エンジニアリングデザイン、バイオテクノロジー、創薬研究などもIT産業に含める場合もあるようだ。

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