インドのIT産業「カーストは無関係」の大誤解 能力のみが評価されると自己定義しているが…

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IT産業がカースト・フリーで能力主義に基づいた平等な働き場所だという自己イメージは、統計などで証明されてはいない。そもそも、IT産業内部には出身カーストを聞かれること自体を嫌悪する風潮が根強いと研究者たちからしばしば指摘されている。

それには、IT産業が留保制度(リザベーションシステム:ダリトや低カースト出身者に職を一定数確保するアファーマティブ・アクション)の導入に強く反発しているという事実が背後にある。IT産業で働く人たちの多くは、留保制度によって、それまで良い職とされてきた公務員職、さらに高級官僚の職までも低カーストに「不当に」奪われたという感情を持っているのだ。

IT産業の職を得れば平均収入の何倍、何十倍に

一方で、アメリカなどからの下請けという側面があることは否めないとはいえ、IT産業に職を得ればインド人の平均収入の何倍あるいは何十倍にもなる給与を得ることができる。2000年代には郵便局長の娘さんがコールセンターで働き出し、初めての給与が父親の給与の4、5倍だったというような話をよく聞いた。

つまり高カースト出身者が、留保制度によってそれまで享受してきたホワイト・カラーの職を得にくくなったとしても、自由主義経済の拡張によってより良い職が用意されていたわけである。

公立学校の教師や大学教員、公務員の給与は2010年代以降徐々に上昇し、IT産業の技術者との差は縮まりつつあるが、それでも後者の方が依然として圧倒的に高額である。自由主義経済の恩恵を最も直接に受けたのは、高学歴・高カーストの中間層なのである。

IT産業の花形であるソフトウェア技術者の出身カーストについては統計資料もなく、また調査することも困難であるという。それでも、少ないサンプル数ではあるがいくつかの社会学的調査が行われている。

2000年代半ばに行われたインドのシリコンバレーと呼ばれる南インド・ベンガルール市で働くソフトウェア技術者に関する調査(Carol Upadhya, ‘Employment, Exclusion and 'Merit' in the Indian IT Industry’, Economic and Political Weekly, Vol.42, No.20, 2007)では、132人の技術者の出身カーストを聞いたところ、48%が最上位カーストのバラモンで、先進カーストとも呼ばれる「再生族(バラモン、クシャトリア、ヴァイシャ)」は実に71%にも上った。

親の学歴では父親の80%、母親の56%が大卒以上。技術者の36%がインドの5大都市(デリー、ムンバイ、コルカタ、チェンナイ、ベンガルール)出身で、29%がマイスールやプネーのような2級(tier two)と呼ばれる都市の出身であった(最近はプネーもハイデラバードなどとともに人口500万以上の1級都市に含まれる)。農村出身者はわずか5%であった。

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