環境に悪くても「牛肉」を食べ続けてしまう必然 肉好きが食べる量を減らすと何が起こるか

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Aさんは、もともと肉を食べる頻度が「2日に1回」と少なめでしたが、そこからさらに「4日に1回」に減らします。一方のBさんは、これまで肉を「毎日」食べていましたが、そこから少し減らして「週5回」にします。単純化のために、2人とも同じ種類の肉を1回当たり100g食べるとしましょう。

さて、AさんとBさんの2人の行動の変化を比べたとき、どちらのほうが肉食による環境負荷を減らす効果が大きいでしょうか?

なんとなくAさんを選んだ人も少なくないと思います。たしかに、食べる肉の量はつねにAさんのほうが少なく、頻度を減らす割合もみても、Aさんは50%減なのに対して、Bさんは29%しか減っていないので、Aさんのほうが大きいです。

肉好きのちょっとした行動変化が大きな変化に

しかし、環境的負荷を減らす効果をみるときに大事なのは、「現在の量」や「変化の割合」ではなく、「変化の量」になります。ここで、1週間に食べる肉の量が、それぞれどれくらい減ったのかをみてみましょう。

Aさんは、350g(=100g×3.5日/1週間)から175g(=100g×1.5日/1週間)まで、175g減りました。
Bさんは、700g(=100g×7日/1週間)から500g(=100g×5日/1週間)まで、200g減りました。

実は減らした量はBさんのほうが多く、つまり、環境負荷を減らす効果も大きいのです。さらに、今回は1回の食事で食べる肉の量を同じとしましたが、もし肉好きのBさんのほうが、健康志向のAさんよりも、1回に食べる肉の量が多かったとしたら、減らす量の差はさらに広がります。

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つまり、肉好きな人ほど、ちょっと行動を変えるだけで、より大きな影響力につながるのです。しかし、この例を出されたとき、Aさんの影響力のほうが大きいと早とちりしてしまうように、自分の影響力を誤認していることも少なくありません。そして、そのような誤認が、肉食を減らす気にならない理由の1つでもあるのです。

このように、学問の枠組みを使って考えていくことが、「食べる」という身近な行為と地球全体の問題とのつながりを見えづらくしている障壁を1つずつ取り除いていくことになるわけです。

下川 哲 早稲田大学 政治経済学術院 准教授

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しもかわ さとる / Satoru Shimokawa

2000年、北海道大学農学部農業経済学科卒業。2007年、アメリカ・コーネル大学で応用経済学の博士号を取得。香港科技大学社会科学部助教授、アジア経済研究所研究員を経て、2016年から現職。これまで、国際学術誌の「Food Policy」や「Agricultural and Resource Economics Review」、国内学術誌の「農業経済研究」や「The Japanese Journal of Agricultural Economics」などの編集委員も務める。専門は農業経済学、開発経済学、食料政策。

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