鉄道車両で躍進「シュタッドラー」名物CEOの素顔 社員18人の企業を買収し、業界大手に育てる

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一方でシュプーラー氏は、当時のスイスの鉄道産業が企業統合によって衰退していく様子を目の当たりにし、「スイスのものはスイスで生産すべき」という強い信念を持つようになった。そして、シュタッドラーは、スイスでボンバルディアが放棄した旧シンドラー社のアルテンライン工場、旧SLM社のラック式車両製造事業を引き継ぎ、見事に再生させている。

また、電機品についてもスイスに工場があるABB社製品を優先的に採用している。総合電機メーカーのABBは、自社から鉄道事業を分離してアドトランツ社に集約していたが、同社のボンバルディアへの統合により鉄道事業から撤退するかと思われた。しかし、シュタッドラーからの優先受注が追い風となり、最近では鉄道関連事業を拡大している状況である。

経営危機もあった

順風満帆のように見えるシュタッドラーにも、経営危機に陥ったことがあった。2011年にはギリシャを発端とするユーロ危機により新規受注が大幅に減少する一方、自国通貨のスイスフランが値上がりして多額の為替差損が発生して存亡の危機を迎えた。

シュプーラー氏は経営者以外に地方議会の議員も兼任していたが、2012年にこれを辞職し、経営に専念することとした。この時には自ら労使交渉に臨み、労働組合から一時的な労働時間延長の合意を取り付けることまでした。2015年にも再度の通貨危機に見舞われ、シュタッドラーは自国通貨スイスフランの強みを生かした調達に切り替えたほか、スイス以外の各国に製造拠点を確保し、納入先に近い拠点で製造する体制も構築した。

通過危機を乗り越えたシュタッドラーは順調に業績を伸ばし、シュプーラー氏は2018年4月に右腕として活躍してきたトマス・アールブルク氏にCEO職を譲り会長に就任、さらに2019年4月には自身が80%所有していた株式を公開、スイス証券取引所に株式上場した。

ところが、2020年5月にアールブルク氏が突如CEOを辞任し、シュプーラー氏が暫定としてCEOに復帰した。この背景は現地メディアでも報道されていないが、日本のユニクロの社長交代劇と同様、自身を超える人材がいないという問題を露呈してしまった。

コロナ禍の影響はシュタッドラーにも及んでおり、かたくなに守られていた納期厳守がついに崩れてしまっている。また株価が上場時よりも低迷しており、目下シュプーラー氏は新たな課題の解決を求められている。はたして、コロナ禍の難局を乗り切れるか、シュプーラー氏の手腕に注目したい。

大島 正規 海外鉄道研究者

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おおしま・まさのり / Masaki Oshima

1953年生まれ。大手総合電機メーカー勤務後、鉄道車両部品メーカーに勤務。現在は鉄道業界団体にて海外向け鉄道関連業務に従事。

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