鉄道車両で躍進「シュタッドラー」名物CEOの素顔

社員18人の企業を買収し、業界大手に育てる

大学卒業までに4年以上要しているのは、スイスでは国民皆兵制を敷いていて兵役義務があるためである。兵役中には氷点下20度の中での行軍、雪中ビバーク等の厳しい訓練も体験したほか、同氏の場合は特に優秀として将校コースの特別養成コースに抜擢されていた。

スイスでは、この将校コースに抜擢されることは、学力、身体能力のみならず、リーダーシップも国家から評価されたことを意味し、兵役終了後の就職においても優遇される。この兵役経験は、シュプーラー氏自身が「多くの事を学んだ」と述べるほど、キャリアに大きく影響したほか、スイスへの愛国心も高めた。また、スイスの大学にはインターンシップ制度があり、同氏は在学中に大手銀行での修業も経験していた。

シュプーラー氏は、こうした経験から大企業に勤務するのではなく、チームワークで自分自身が思い通りに実現できる仕事に就きたいことに気づき、大学卒業後の1987年にシュタッドラーに入社した。そして創業者一族から事業後継者として認められたばかりでなく、2年後の1989年にはまだ20代の同氏の能力を見込んだスイスのトゥールガウ州銀行から500万スイスフラン(約6.2億円)という破格の融資を得て、自らシュタッドラー社を買い取った。

当時、スイスの主な車両メーカーは、ベルリンの壁崩壊後に始まったヨーロッパ車両メーカー再編の渦中にあり、シュタッドラー社に至ってはジャーナリストから「村の鍵屋」と揶揄されるような存在だった。そんなちっぽけな企業のサクセスストーリーが始まったのは、「重量半分・価格半分」をコンセプトに開発したローカル線用車両「GTW」を1995年に販売を開始したときからである。

シュタッドラー製の近郊用車両「フリート」(写真:矢崎康雄)

GTWシリーズは、他社に先がけてモジュール方式を採用したのが特長で、客先需要に合わせて客室モジュール数を増減させるほか、動力専用の電気またはディーゼル駆動モジュールを中間に組み込んで多様な客先仕様に対応する構造としたことで、客先の支持を受けたヒット商品となった。さらに、GTWのモジュール方式を発展させた近郊用車両「フリート」、オール2階建て電車キスを開発して市場に投入し、いずれもヨーロッパ市場全体での大ヒット商品となっている。

スイスならではの経営方針

スイスの企業はほかのヨーロッパ諸国の企業と比べて実直、勤勉という特徴があり、企業風土が日本と似ているところがある。

シュタッドラーの経営方針を日本流に要約すると「顧客第一、トップ技術、従業員第一」が謳われており、客先の信用、従業員の雇用を大切にしている。そのため、シュプーラー氏は納期厳守、敏速な客先対応を厳命しているとされる。これは、巨大化しすぎて納期遅延が日常化し、客先対応がどうしても遅れてしまう大メーカーと比較して、顧客の信頼を獲得する大きな要因となった。

ちなみに、同氏は「戦略としての成長自体はナンセンスであり、成長はつねに優れた戦略の結果であるべき」との持論のもとに、事業規模拡大を追求した経営を否定している。社内では同氏は専門の経営学と軍隊経験を生かした組織を構築した。

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