「サイボーグになって幸せです」61歳科学者の肉声 「ネオ・ヒューマン」著者独占インタビュー:前編
――声帯を除去したあとで起きたことを、もう少し詳しく教えてください。
病状そのものは悪くなる一方です。地元のNHS病院(注:イギリスの公的な国民保健サービスに所属する病院)で行った手術がなければ、2019年の冬を越すことはできなかったでしょう。この手術で、私は生き延びるチャンスと引き換えに話す能力を失いました。
もっとも、それまでの人生で、私はあまりにも声帯を酷使していました。ですから、今は失われていた沈黙を取り戻しているだけなのだと思っています。そうは言っても、視線入力システムを使って言いたい言葉を綴ることができなかったら、とてももどかしい思いをするでしょうけどね。
今は、「私の声」だと皆に認識してもらえる機械の声でコミュニケーションができることに満足しています。おかげで、肉声に対する執着は完全になくなりました。自分でも意外なほど、今の気分は絶好調です。
顔の筋肉の一部を動かせる以外、もはや私の身体は完全に麻痺しています。そうなったら多少なりともショックを受けるだろうと覚悟していたのですが、思っていたほど大したことではありませんでした。
完全に麻痺した状態を楽しむコツは、自分は豪華なスパ付きホテルに滞在しているのだと思い込むことです。マッサージ係に「足をこちらに乗せて、力を抜いてくださいね」などと言われているような状況を想像すればいいのではないでしょうか。
私が毎日を楽しめる「脳の可塑性」という驚異
――この1年間で、いちばん良かったことは何ですか?
もちろん、「まだ生きていること」は間違いなくトップにくるでしょう。週7日、休みなしに働けることにも感慨を覚えています。正直なところ、現役時代よりずっとハードな仕事ぶりではありますが。
初めて会う人々が、皆とびきり親切にしてくれるのも嬉しいことです。私自身はその好意を当然のように受け取っていましたが、どうやら現代社会では珍しいことのようですね。
しかし、本当にいちばん良かったこと、少なくともいちばん嬉しい驚きだったことは、私が毎日を楽しめているということです。
皆さんにとっては奇妙に思えるかもしれません。統計的には、私はとっくに死んでいてもおかしくないのですから。また、いまだに世間で根強く語られている「ALSになった人の悲惨な話」のとおりならば、毎日死にたいと思いながら生きていても不思議ではないでしょう。
ところが、実際の私は生きる気力に満ちていますし、毎日わくわくしています。未来がやってくるのが楽しみで仕方ないのです。
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