今起きている円安の一体どこが悪いというのか 経済を知らない経済官僚に依存してはいけない

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そして、現在起きている資源高は、上昇ピッチこそ速いが、製造業の生産活動の伸びで長期的にはほぼ説明できる程度の価格上昇と筆者は判断している。また、コロナ禍後の世界的な製造業生産の回復は、アメリカの想定外の財消費急増がもたらした、財市場における需要>供給によって実現した。また、コロナ禍が労働力などの供給の抑制要因になり、財市場での超過需要を強めた。

ただ、超過需要のそもそもの原因である財消費の急増は、すでに今年の夏場にアメリカで終わっている。個人消費回復の主役は、財からサービスにかなりシフトしているためである。2022年にかけてコロナ懸念の緩和で供給制約も解消に向かうとみられ、現在のような財市場における超過需要と価格上昇が来年以降も続く可能性は低い。

想定外の財市場での超過需給は、財需要の落ち着き、そして企業活動・労働市場の正常化によって、すでに縮小し始めているとみられる。また、マクロ安定化政策の対応がなくても、企業の自助努力、コロナを収めるための公衆衛生政策で対応できる、現在の需要超過という経済状況は、株式市場などリスク資産にとって望ましいといえる。だから、先述したとおりにアメリカ株の上昇が途切れないのだと筆者は考えている。

中国の幅広い統制経済強化が何をもたらすのか

一方、2022年にはアメリカでの総需要減速が成長率を低下させて、一転して価格抑制要因になるフェーズ(段階)に変わると筆者は予想している。

成長減速要因はいくつか考えられる。まずは、2021年の同国の高成長をもたらした財政金融政策の効果が逓減する。より大きなリスクと警戒されるもう1つの要因は、中国当局が幅広く経済統制を強化することで中国経済が減速することである。筆者は2022年に4%台まで中国の経済成長率が低下すると予想しているが、これが各国に波及して、世界的な総需要の減速をもたらすだろう。

需要停滞が招く成長減速は、株式市場などリスク資産にとって逆風になる。筆者が懸念しているように、政治都合が優先されて中国経済の落ち込みが深刻になれば、中国を含めた政策転換がなければ、世界の経済成長率の押し上げは難しくなるかもしれない。

つまり、スタグフレーションが懸念される2021年は株式市場にとってよい環境だが、2022年に懸念される需要停滞に直面するほうが、株式市場にとって悪い環境になる。スタグフレーションを強調するメディアの論調はやや的外れで、現在のようにスタグフレーションを懸念要因として報じる記事は、むしろ株買いのシグナルといえるだろう。

同様に最近メディアで目立つ的外れな議論は、最近の円安をいきすぎと評価したり、交易条件の悪化を過度に強調する見方だろう。1ドル=115円手前まで円安ドル高が進む過程で、こうした論調が増えている。

年初に100円台前半だったドル円がここまで円安になったのは、筆者にとって予想外だったが、足元の円安はアメリカと日本の金融政策の姿勢、それに対する金融市場の期待によって説明できる。

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