もともと失言「インフレ率2%目標」に固執する暗愚 日本の「自然インフレ率」他国より低い1%以下?

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また、高齢化と生産年齢人口の減少はデフレ圧力となります。特に、短期的には人口減少は需要ショックとなるので、強いデフレ圧力になります。

これら6つの要因がインフレ率向上の妨げとなっているので、インフレ率を2%にする有効な経済政策は考えにくいのです。やはり、30年前に設定され始めた2%インフレ目標は寿命がきていると考えなければなりません。

日本は「自然インフレ率」が低いだけ?

日本では、インフレ率2%にならないとどうにもならないと言う人がたくさんいます。しかし世界の歴史を見れば、インフレ率が2%を下回るのは、別におかしなことではありません。

ボストン連銀の「Changes in the Federal Reserve’s Inflation Target: Causes and Consequences」によると、連銀の実質インフレ目標は1959年時点で1.25%だったようです。1970年代後半にはこれが8%まで上昇したものの、その後また下落し、2004年には2.25%まで下がりました。

前々回の記事(歴史が暴く「インフレなら経済成長」という妄信)で紹介したように、1750年から1930年までのアメリカとイギリスの平均インフレ率は1%以下でしたし、日本の目標も2013年まで1%でした。

経済学には、自然利子率や自然失業率などの、さまざまな「自然〇〇率」という概念があります。政策介入や短期的な景気の攪乱要因がない場合の利子率や失業率のことです。

インフレ率にも「自然インフレ率」というものが存在するのではないかと主張している学者もいます。確かに、自然成長率や自然利子率、自然失業率が存在するのであれば、これらはすべて相互に関係しあうので、自然インフレ率があってもおかしくはないと思います。

理論上、金融政策次第で、この自然インフレ率を上回る運営や下回る運営は可能かもしれません。しかし、その水準を大きく変えることができないのではないかという仮説もありえます。

先ほど説明したインフレ率の低下要因を念頭に考えると、日本の高齢化の進展と人口減少の勢いはどの先進国よりも速いので、日本の自然インフレ率が諸外国より低くなることは必然です。特に、いまだに人口が増加しているアメリカに比べるとその差は歴然です。

日本のインフレ率は、1980年代の初めからずっと先進国を下回っています。ですから、諸外国と同じ2%目標を掲げることには違和感を覚えますし、1990年代に入ってからおかしくなったという理屈も成り立ちません。やはり、日本は「自然インフレ率」が諸外国より低いという仮説を検証する価値は高いと言えます。

他の先進国がインフレ率2%を維持することが難しくなると、日本ではさらに難しくなるのは必然です。日銀が掲げているインフレ率2%という目標は、非現実的といわざるをえません。

前回の記事で説明したように、日本政府は社会保障負担の増加を受けて、先行投資を削ってきました。それが経済成長に悪影響を与えています。

経済成長が低迷すると、国の財政は改善しません。とは言え、財政が健全ではない日本で、バラマキ政策は危険です。あくまでも、乗数効果が1以上の財政出動に限定する政策が好ましいです。

インフレ2%目標を達成するまで継続的に財政出動を増やすべきと主張する人がいます。しかし、つまるところ、非現実的なインフレ2%目標を基準にした財政出動は、極めて危険な政策だという結論になるのです。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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