日本人は低い食料自給率のヤバさをわかってない 6割以上を海外に頼る状況を放置していいのか

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なぜこうなってしまったのか……。日本の場合、国土面積のうち約7割が森林を占めており、農地面積が限られている、という説明ができる。確かに、森林を農地に転換するのは大変な労力だが、これまでの農業政策でよかったのかという疑問は残る。森林を守ることも大切だが、場所に応じて適切な使われ方をしていくことも大切だ。

日本はこれまで広大な森林面積を使って、ゴルフ場をつくり、住宅地を開拓してきた。それに対して、農業は農業組合などの既得権益を持つ団体の保護に追われて、抜本的な改革ができなかったとも考えられる。また、農林水産省自身が、戦後の木材不足を見越してスギやヒノキの植林を推奨したために、森林がそのまま放置された面もある。

日本の森林面積率は国土の約66%(2017年現在、以下同)。それに対してオーストラリアは16%、イギリスは13%だ。アメリカ、ドイツはそろって32%。食料自給率の向上を考えたときに、この66%の森林面積をどう生かしていくかが大きな問題といえるかもしれない。

また、日本の場合は、近年の人口減少で専業農家が減少してきたことも大きな影響を及ぼしている。こうした時代の変化に対して、行政が農業の法人化といった農業政策の転換に遅れたのも1つの原因といっていい。

食料自給率向上のためにとった政策とは?

こんな状況の中で、農水省がとった食糧自給率向上のための農業政策もあまり効果的ではなかった。食品ロスをなくす、日本人の食生活を転換させるといったさまざまなプログラムはあったのだが、結果的にはその政策が効果的に働いているようには見えない。

例えば、政府は2015年3月に「食料・農業・農村基本計画」を閣議決定して、2023年までにカロリーベースの食料自給率を39%(2013年当時)から45%に、生産額ベースでも65%(同)から73%に上昇させる、という目標を掲げた。

具体的には、食料の安定供給の確保、農村の振興、農業の持続的な発展、農業団体の再編整備といった政策を明示し、食料自給率の目標値を初めて設定した。たとえば、力強く持続可能な農業構造の実現に向けた担い手の育成・確保・経営所得安定対策の着実な推進、女性農業者が能力を最大限発揮できる環境の整備、農協改革や農業委員会改革の実施、農村への移住・定住の促進といった項目が並ぶ。

さらには、民間企業・団体・行政等が一体となって国産の農産物の消費拡大を推進するプロジェクトを立ち上げて、食料自給率アップのために「今が旬の食べ物を選ぶ」「地元でとれる食材を使う」「ご飯を中心に野菜を使ったバランスのいい食事」「朝食の推奨」「食べ残しを減らす」といった「食育」の概念まで導入。国民の食生活にも注文を出している。

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